多寡たくわ)” の例文
多寡たくわが厄病神のやうな流行物はやりもの——と鼻であしらつて來た平次も、庵室へ行つて見て、まるつきり豫想と違つて居るので驚きました。
身を軍籍にかざれば祖国のために尽すの路なきが如き、利子付きにて戻る国債応募額の多寡たくわによつて愛国心の程度が計らるゝ世の中に候。嗟嘆ああ、頓首。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
五郎 多寡たくわが面一つの細工、いかに丹精を凝らすとも、百日とは費すまい。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
つぶし是は滅法界めつぱふかいに重き御品なり先生此御杖このおつゑ何程いかほど貫目おもみ候やら私し共には勿々なか/\持上らずと云ければ後藤は打笑ひいな多寡たくわの知たる鐵の延棒のべほう某しがつゑの代りについ歩行あるくしな目方は十二三貫目も有べし途中にて惡漢わるものなどに出會いであひし時には切よりも此棒にて打偃うちのめすが宜しと云つゝ片手にて是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
多寡たくわが地主の金持と思つたのは、大變な見縊みくびりやうで、近所の旗本や、安御家人ごけにんの屋敷などは蹴落されさうな家です。
是非もない羽目ではござるものの、多寡たくわが女子ぢや。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「まだ口を割らないが、多寡たくわ棟割むねわり長屋だ。家の外へ隱すやうなこともあるまいから、床下でも掘ればいづれは出て來るよ」
こぼす女は多寡たくわが知れてるが、——自分の美しさを知り拔いて、それをチラリと覗かせると、男がどんなことになるかを樂しむ女は一番恐ろしい
先は多寡たくわが質屋渡世の田代屋ですが、二萬兩の大身代の上、仔細あつて公儀からお聲の掛つた家柄、まさか着流しで出かけるわけにも行かなかつたのです。
多寡たくわが人殺し、神變不可思議の術がある筈もないと思ふが、江戸一番の御用聞と言はれる錢形の親分が、肝膽かんたん
どうせたいしたことではあるまいと多寡たくわをくゝつてゐると、それが思ひも寄らぬ事件に發展して、正月半ばを過ぎたばかりの、屠蘇とその醉もさめやらぬ平次に
「急がしい身體とでもいふのかえ、多寡たくわ博奕兇状ばくちきようじやうか何んかだらう、——一體何を話したいといふのだ」
いやになるなア、そんなに多寡たくわをくゝつて居ちや。丹波屋の隱居は、俺をこんな目に逢はせた奴に、明日の天道樣を、まともに拜ませちやならねえ。錢形の親分を
「人でも殺さうといふ野郎は、横着で馬鹿に決まつてゐまさア。二人迄殺して一向露見しさうもないとなると、多寡たくわをくゝつて、きつと三人目に取りかゝります」
お擧げ下さい。私は多寡たくわが町方の御用聞で、巾着切や屋尻切やじりきりを追ひ廻すのが身上しんしやうで、大名方の御家騷動に、首を突つ込むやうな大した働きのある人間ぢや御座いません
最初は江戸の町人達も、どうせ、山かん野郎のペテン師だらうと多寡たくわをくくつて、——お寺の墓を掘り返して見ねえ、骸骨がいこつと一緒に、間違ひもなく六道錢は入つて居るよ。
「よく判りました、奧樣。何の、多寡たくわ白痴脅こけおどかしの化物ごつこくらゐ、口幅くちはゞつたいことを申すやうで恐れ入りますが、この利助の黒い眼で睨めば、一と縮みで御座いませう」
下手人の疑ひは眞つ直ぐに雪五郎の方へ行つたのも無理はないが、師匠の月齋と一緒だから、大丈夫許されるだらうと俺は多寡たくわをくゝつて居た。——誰もお關を疑ふ者はない。
お靜がお勝手口から飛び出したつて、まさか、身賣をするわけぢやあるめえ、多寡たくわが質屋通ひだ。こちとらの女房が質屋の暖簾のれんをくゞるのは、三度の飯をくのと同じことだよ。
多寡たくわが子供の玩具の吹矢なら、洗ひ立てして、反つて氣の毒なことになりはしないか」
與力筆頭笹野新三郎が出役となれば、多寡たくわが豪士の見識けんしきも文句もありません。
申したかも知れぬが、多寡たくわが千や二千の金、何んの苦勞もなく出してやつたものを——かう思ふと、あの出來の良い褒めものの伜を、腹を切るまで迷はせた女が憎くなるのは當り前ではないか
先生の忘れ形見——多寡たくわが娘一人を目的に、命がけの爭を續けて居る横井源太郎には、斯うなつては、最早悔も躊躇ちうちよもありません。それほどお玉の値打は、二人の心をとらへてしまつたのでせう。
いろ/\防ぎの手も考へたが、素人の智惠は多寡たくわが知れて居るから、何んか氣が付いたことがあつたら、親分の考へを彌十なり七之助なりへ言つてくれ——と斯うで、あつしを親分と言ひましたぜ
どうせ大したことは出來ないと言つた、多寡たくわくゝつた態度です。
富崎佐太郎が、金森家へ返した金がいくらか、確かな事が知り度いんだ。浪人物の工面なら多寡たくわが知れてゐるが、若し三千兩とまとまつてゐたら、すぐ飛んで來てくれ。——佐太郎自身で持つて行つたか、使の者を
二人共萬に一つ處刑おしおきになるやうな事はあるまいと多寡たくわ
「なアに、二本差でなきや、多寡たくわが知れてゐますよ」
あるわけはありません。あの通りの太つ腹で、奉公人も出入り職人も隨分うるほつてゐました。現にこの私など、多寡たくわが廻船問屋の番頭で、年に五兩か六兩の手當が當り前ですが、十兩の給金の外に、盆暮には十兩づつの御手當を