)” の例文
たうとうらへ切れなくなつた母は、母らしい智慧で父の様子を知る一策を案じ出した。母は私を隅の方に呼んで此方策を授けた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
その外は新平ばかり継子にする、世間の人が不足ぞやと。口に出してもいひたさを、じつとらえて涙ぐむ、清子が顔を、さもこそと、太一は重き枕を擡げ。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
其中そのうち祖父ぢいさまがすりものの上へ筆の先で一寸ちよつと蚯蚓みみずよぢれたやうなものをおかきなすつたが見えましたから、不思議で/\、黙つて居ようと思つても、らへ切れませんで、ツイ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
じっとらえれば堪らえるほど手も膝も顫え、罪もない淀文の梯子はしごを荒々しく踏んでその夜は帰ったが、それも一旦の怒でさて又鎮って考えると、もしや小歌が春泉の思惑をかねて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
丁度ちょうど十楽院じゅうらくいん御陵ごりょう近処きんじょまで来ると、如何どうしたのか、右手ゆんでにさしておるからかさが重くなって仕方がない、ぐうと、下の方へ引き付けられる様で、中々なかなからえられないのだ、おかしいと思って
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
女はらえていたような笑い方をした。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
乃公もこれまで養父への、義理立てゆゑに、らえてゐたれど。もう堪らえるには及ばぬ一条。乃公が身体は自由になつた。一日二日のその内には、きつと処置を付ける筈。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
小歌が莞爾にっこりと笑った時だけ、不知不識しらずしらずの間に自分も莞爾にっこりと笑い連れて、あとはただ腕組するばかりのことだから、年の行かぬ小歌にはたえかね接穂つぎほなく、服粧なりには適応にあわず行過た鬼更紗の紙入を
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)