すす)” の例文
裏の井戸へ行って、顔を洗う、口をすすぐ。そして彼は、もう暁に近い灯をり直し、気をあらためて、また、彫刀を持ち直した。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝、眼がさめると良寛さんは、庵の裏の小さい泉へいつて、口をすすぎ顔を洗つた。すがすがしい朝だ。小鳥の声が拍子木のやうに、森にとほつてよく響く。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
先ずこの清い流れにすすぎもし、頭も洗い、顔も拭いた、気が遠くなるような悪臭の蕕草かりがねそうを掻き分けたことや
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
にが笑いをして成信は起き、少しばかりふらふらするが、すすぎ口の廊下から井戸のほうへと出ていった。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あとの一人は、八寸の三宝に三種の歯みがき——しお松脂まつやに、はみがきをのせて、おすすぎを申し入れる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
朝、その水で私達は口をガラガラすすいだ。井戸の中には、おばさんの下駄げたが浮いていた。私は禿げた鏡を借りて来て、井戸の中を照らしながら、下駄をざるで引きあげた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
普通手洗水鉢に備えてある手杓の三分一ほどの手製のものがあった、それで汲み得る水で面を洗うのである。又それで口をすすぐのである。猫の顔を洗うような塩梅であった。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
やがて日が暮れると洞庭秋月皎々こうこうたるを賞しながら飄然ひょうぜんねぐらに帰り、互に羽をすり寄せて眠り、朝になると二羽そろって洞庭の湖水でぱちゃぱちゃとからだを洗い口をすす
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
以て以前邦人が香の嗜み格別で、今日雪隠せっちんへ往って手を洗わなんだり、朝起きて顔を洗わずコーヒーを口に含んで、歯垢はくそすすぎ落して飲んでしまう西洋人と、大違いたるを知るべし。
サンドウィッチや弁当を食べたのち谷川の水で口をすすぎさえすれば一日奔走ほんそうしておっても決して水を飲むに及びません。夏の炎天に山を登るのでも今の通りにしておれば水を飲まずに済みます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
笹村は水口で渇いた口をすすぎながら言った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「口だけすすげばよい」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
病髪を撫で、口をすすぎ終えて、半兵衛が小書院へ姿を運んで行くと、家来の熊太郎と他の客ふたりは、すでに席について、物静かにあるじを待っていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すすぐ、洗う、もうかるばかりにして、やっと満腹した。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「口をすすぎ、手をきよめ、酒面を洗って、大評議の閣へ集まれと伝えろ。わしも直ぐそれへ臨むであろう」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊織は、家人にほうきを借りて、部屋の掃除にかかったが、なお、心配になるので、武蔵が何をしに行ったのかと、裏庭をのぞくと、武蔵はそこの井戸ばたで口をすすいでいた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はははは。落着いてから分って来ます。逃げるのも、時には、心地よいものだということが。……そこに流れがある。水で口でもおすすぎなさい。そしてお宿までお送りしよう」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「口をすすぎなさい。手を洗っておいでなさい。そして、お仏間へ来るがよい」
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
使用人やふつうの会衆には酒飯しゅはん追善振舞ついぜんぶるまいがあって、それも終りをつげていたが、やがてこく(深夜十二時)ごろとなると、四職以上の盲人に客の四人、座役の数名の人だけが口をすすいで
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おすすぎを」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)