“喚（わ）” の例文
キチガイのように喚（わ）めき立てながら二階へ駈上って、女優の天川呉羽に報告した……というのが、あの新聞記事以前の事実なんだがね
二重心臓 (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
善ニョムさんは、泣声になって喚（わ）めいた。いやだ、いやだ——青い麦の芽達が、頭を振りながら、善ニョムさんの眼前に現われて来た。
麦の芽 (新字新仮名) ／ 徳永直(著)
何を怒つてゐるのだか解らなかつたが、脾弱（ひよわ）で癇癖の強い軍治は地団駄を踏みながら、何ごとか喚（わ）めいて幾の肩を小さい手で打つてゐた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) ／ 田畑修一郎(著)
『やあ、生きた／＼。また生きたでア。』と喚（わ）めきながら、皆は豊吉を先立てゝ村の方に遁げ出した。私は怎したものか足が動かなかつた。
二筋の血 (新字旧仮名) ／ 石川啄木(著)
怒る時は目を剥（む）いたり、泣く時は大声で喚（わ）めいたり、笑う時には小屋を揺がせるような、高声を出す代りに、この役者は泣く時も笑う時も怒る時も質素で
ある恋の話 (新字新仮名) ／ 菊池寛(著)
トウカミエミカミというふうに喚（わ）めいていた、×××教というので堀越三升（ほりこしさんしょう）でさえ——九代目団十郎——権少都（ごんのしょうづ）の位になって信心してるのだからたいしたものでさという勢いだった。
旧聞日本橋：10 勝川花菊の一生 (新字新仮名) ／ 長谷川時雨(著)
そして、借金は減る所か、月と共にグングン増えて、いつか元利積って二百円余りになった。玉島は少しも督促の手を緩めず、殊（こと）に年の暮が近づいて来ると、毎日のように喚（わ）めき立てに来るのだった。
罠に掛った人 (新字新仮名) ／ 甲賀三郎(著)
彼は喚（わ）めきながら、自分の胸をなぐりつづけた。
魔性の女 (新字新仮名) ／ 大倉燁子(著)
なかば眠りから醒めずに泣き喚（わ）めく。
刺青 (新字新仮名) ／ 富田常雄(著)
お銀様は喚（わ）ッと泣き出しました。
大菩薩峠：14 お銀様の巻 (新字新仮名) ／ 中里介山(著)
そしてこれも顔を赤くホテらした断髪の娘は、土堤から畑の中へ飛び下りると、其処此処（そこここ）の嫌いなく、麦の芽を、踏みしだきながら、喚（わ）めいた。
麦の芽 (新字新仮名) ／ 徳永直(著)
何か費用の要る事があるとお能の際に、楽屋から観衆席を巡回して目星い人間を片端から引捕えて、自身の山高帽を突付けながら喚（わ）めき立てた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) ／ 夢野久作、杉山萠円(著)
あとは野となれ山となれ——泣こうが喚（わ）めこうが発狂しようが、どこを風が吹くという鼻の表現で取り付く島もなくふり捨ててしまうのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
それは病院の外まで聞えたろうと思うくらい、猛烈な喚（わ）めき声であった。そう云う私自身の表情はむろん解らなかったが、恐らくモノスゴイものであったろう。
一足お先に (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
私は私自身が徹底的に絶対無限に潔白である事を、遺憾（いかん）なく証明し得るであろう、そのインスピレーションを眼の前に、凝視したまま、躍り上らむばかりに喚（わ）めき続けた。
一足お先に (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
それに魘（おび）えて狂いまわる猿輩（さるども）の裂帛（れっぱく）の叫び……呑気な羊や、鶏（とり）の類までも眼を醒して、声を限りに啼き立て、喚（わ）めき立てている。その闇黒の騒がしさ……モノスゴサ……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
脳髄を中心として一斉に意識し、感激し、闘い、歌い、舞い、喚（わ）めき、叫んでいるのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
美留女（みるめ）姫に誘われて一所にあとから逃げながら、このお爺さんの喚（わ）めき声を聞き付けて不図うしろをふり返ると、その顔を一目見るや否や、お爺さんは又もや腰の抜ける程驚いた様子で——
白髪小僧 (新字新仮名) ／ 夢野久作、杉山萠円(著)
彼（か）の花の白く咲かむ限り、此の切支丹寺に、われ等の執念残れりと思へ。此の怨み晴れやらぬものと思へと狼の吠ゆるが如く喚（わ）めき立つるを、何を世迷言（よまひごと）云ふぞ、と冷（あざ）笑ひつ。此世は此世限り。
白くれない (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
ピストルを持つ毛ムクジャラの大使の腕に両手で縋（すが）り付いて喚（わ）めいた。
人間レコード (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
機関長を殺せとか何とか喚（わ）めきやがって、ピストルを振りまわすので、トテモ物騒で寄り付けない。……とか何とか事務長が文句を云いに来たから、僕は眼の球（たま）の飛び出るほど怒鳴り付けてやった。
焦点を合せる (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)