吾知われし)” の例文
だからこの変化の強く起ったきわどい瞬間に姿を現わして、その変化の波を自然のままにひろげる役を勤めたお延は、吾知われしらずもうけものをしたのと同じ事になったのである。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにまだ世間せけんには売物ばいぶつにないと結構けつこうなお下物さかなでせうなんだか名も知らない美味物許うまいものばかりなんで吾知われしらず大変たいへんつちまひました、それゆゑ何方様どちらさまへも番附ばんづけくばらずにかへつたので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
肋骨材等ろくこつざいとう諸般しよはん構造こうざうながめ、また千變萬化せんぺんばんくわなる百種ひやくしゆ機關きくわん説明せつめいいたときは、ほとんどこれ人間にんげんわざかとうたがはるゝばかりで、吾知われしらず驚嘆きやうたん叫聲さけびはつすることきんなかつた。
今まで団体的に旋回していたものが、吾知われしらず調子をはずして、一人圏外けんがいにふり落された時のように、淡いながら頼りを失った心持で、彼女は自分のうちの玄関を上った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今までお延の前で体面を保つために武装していた津田の心が吾知われしらずゆるんだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)