句読くとう)” の例文
旧字:句讀
余十八九歳の頃片山再び浪華なにはに下り、立売堀いたちぼりに住す。余従つて句読くとうを受く。四書六経史漢文選等を読むことを得たり。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
信州上田うえだの人で児玉こだま政雄まさおという医者がひところ馬籠に来て住んでいたことがある。その人に『詩経しきょう』の句読くとうを受けたのは、半蔵が十一歳の時にあたる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朱筆をる。片端から句読くとうを切る。句読を切りながら直して行く。読んでしまうのと直してしまうのと同時である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やや色づいた田圃たんぼの先に松並み木が見えて、そのあいだから低く海の光る、平凡な五十三次風つぎふうな景色が、電柱で句読くとうを打ちながら、空洞うつろのような葉子の目の前で閉じたり開いたりした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ざ自分が筆を執る段となると仮名遣いから手爾於波テニヲハ、漢字の正訛せいか、熟語の撰択、若い文人が好い加減に創作した出鱈目でたらめの造語の詮索せんさくから句読くとうの末までを一々精究して際限なく気にしていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
近頃は爺婆じじばばの方が横着おうちゃくで、嫁をいじめる口叱言くちこごとを、お念仏で句読くとうを切ったり、膚脱はだぬぎうなぎくし横銜よこぐわえで題目をとなえたり、……昔からもそういうのもなかったんじゃないが、まだまだ胡散うさんながら
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という冒頭ぼうとうで四尺ばかり何やらかやらしたためてある。なるほど読みにくい。字がまずいばかりではない、大抵たいてい平仮名だから、どこで切れて、どこで始まるのだか句読くとうをつけるのによっぽど骨が折れる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「というと、句読くとうをつけることだね?」
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
成善を送るものは、句読くとうを授けられた少年らの外、矢川文一郎、比良野房之助、服部善吉はっとりぜんきち菱川太郎ひしかわたろうなどであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鉱物、一切の元素が、一々ひとつずつ微細なる活字となって、しかも、各々おのおの五色のかがやきを放ち、名詞、代名詞、動詞、助動詞、主客、句読くとう、いずれも個々別々、七彩に照って、かく開きました真白まっしろペエジの上へ
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
残る五人の子のうちで、十二歳の陸、六歳の水木、五歳の専六はもう読書、習字を始めていた。陸や水木には、五百が自ら句読くとうを授け、手跡しゅせきは手をって書かせた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
老年に及んでけい躋寿館せいじゅかんに講ずることになった。慶応二年九月十八日に、六十九歳で歿した人である。抽斎の生れた文化二年には八歳だから、郷里にあって、父恭斎きょうさい句読くとうを授けられていたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)