口前くちまえ)” の例文
浜勇のいう話によりますと、和武ちゅう人は、口前くちまえが上手で、ケチで下品で、とても華族ちゅう肩書の他には、とンと取柄がないちゅう結果になります。
「でも、お前さんが、山道は景色が好いの、身延みのぶへ御参詣をなさいのと、口前くちまえをよくすすめるものだから」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ああいえば、こうと、あなた様のお口前くちまえは、いつも私を、茶化ちゃかしてばかりおしまいなさいます。寧子は、世間の女子おなごのような、嫉妬しっとでいうのではございません」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたが殺すなれば三年連添つれそってるからとっくに殺さなければならんに、貴方はだまされてるから、わしが其の事を忠告してうちへ帰れば、おあさどのが又いつもの口前くちまえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真実彼奴きゃつはそう信じて言うわけじゃない。あれは当世流の理屈で、だれも言うたと、言わば口前くちまえだ。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こういう大将は、地下じげの分限者、町人などにうまく付けこまれる。やがて、家風が町人化し、口前くちまえのうまい、利をもって人々を味方につける人が、はばを利かしてくる。
政吉 そ、その口前くちまえだ。俺を地獄へ突きおとすのか。くそっ、もうだましには乗らねえぞ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「いよいよもって呆れたな。口の軽い男だわい。その口前くちまえで女子をたらし、面白い目にも逢ったであろうな」「これはとんだ寃罪えんざいで、その方は不得手でございますよ。第一生物なまものは断っております」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
口前くちまえひとつで人にとりいることは、天才といっていいほどの鼓の与吉。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そちらしくないことを申す、口前くちまえを覚えて置け。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
本郷の伯母さんという人は、お松を島原へ売った人、不人情で慾が深くて、そのくせ口前くちまえのよい人。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
べちゃくちゃ世辞をいう口前くちまえい人だね、実はわしはね、人には云わないが旦那の殺されたばかりの処へ通り掛った処が、丁度廿五日で真暗まっくらだ、私がずん/\くと
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
源三郎とすっかり仲なおりができて、彼に頼まれて萩乃を送ってゆくという口前くちまえで、連れだして来たのだから、峰丹波も与吉も、いま狂気のように急ぎだした萩乃を、引きとめることはできません。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)