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取迯
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とりにが
付て見るに
袂の切れてあり
然すれば昨夜の火付は
渠の
業に相違なく
早々召捕給へと申するに粂之進
然らば
取迯さぬ樣
支度せよとて
手配にぞかゝりける喜八は如何に
周章しや昨夜の布子を
呉と聲を
掛しかば喜八ハイと答へて
揚戸を
上る
時袂の
斜に
引裂てあるゆゑ軍平は
眼を
留て見るに
縞柄も昨夜の
布子に
相違なければ
直に召捕んとせしが
取迯しては一大事と
然有ぬ
體にて煙草を
取迯しては
假令訴へ出るとも此身の
科は
免かれ難し
殊には
一人旅は
泊ぬ
御大法なり女は善六の頼みなれば
云譯も
立べけれど
侍ひの方は此方の
落度は
遁れ難し
所詮此事は
蔽すに
如じと家内の者共に
殘ず
口留して
邊の血も
灑拭ひ死骸は幸ひ此頃
植し庭の梅の木を