印気インキ)” の例文
旧字:印氣
彼は読みながらその紙へ赤い印気インキで棒を引いたり丸を書いたり三角を附けたりした。それから細かい数字を並べて面倒な勘定もした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは印気インキの助けを借らないで、鮮明な印刷物をこしらえるとか云う、ちょっと聞くとすこぶる重宝な器械についてであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただのペンを用い出した余は、印気インキの切れる度毎たびごと墨壺すみつぼのなかへ筆をひたして新たに書き始めるわずらわしさにえなかった。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の心はこの多量の紙と印気インキが、私に何事を語るのだろうかと思って驚いた。私は同時に病室の事が気にかかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はまた洋筆ペンを放り出した。赤い印気インキが血のように半紙の上ににじんだ。彼は帽子をかぶって寒い往来へ飛び出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
純白なものに一雫ひとしずく印気インキでも容赦ようしゃなく振り掛けるのは、私にとって大変な苦痛だったのだと解釈して下さい。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は漫然と万年筆を手にしたまま、不動のたきだの、ルナ公園パークだのと、山里に似合わない変な題を付けた地方的の景色をぼんやり眺めた。それからまた印気インキを走らせた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ペリカンは余の要求しないのに印気インキ無暗むやみにぽたぽた原稿紙の上へ落したり、又は是非墨色を出してもらわなければまない時、がんとして要求を拒絶したり、随分持主を虐待した。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも持主たる余の方でもペリカンを厚遇しなかったかも知れない。無精ぶしょうな余は印気インキがなくなると、勝手次第に机の上にあるんな印気でも構わずにペリカンの腹の中へぎ込んだ。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤い印気インキで汚ない半紙をなすくるわざようやく済んだ。新らしい仕事の始まるまでにはまだ十日の間があった。彼はその十日を利用しようとした。彼はまた洋筆ペンを執って原稿紙に向った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時の余は印気インキの切れた万年筆まんねんふでの端をつまんで、ペン先へ墨の通うように一二度るのがすこぶる苦痛であった。実際健康な人が片手でかしの六尺棒を振り廻すよりもつらいくらいであった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨夕ひもを通したかんが、どうした具合か抜けている。井深はそのついでに額の裏を開けて見た。すると画と背中合せに、四つ折の西洋紙が出た。開けて見ると、印気インキで妙な事が書いてある。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
絵の具を乾かす時間がはぶけるだけでも大変重宝で、これを新聞に応用すれば、印気インキや印気ロールのついえを節約する上に、全体から云って、少くとも従来の四分の一の手数がなくなる点から見ても
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
レオパルジの隣にあった黄表紙きびょうしの日記を持って煖炉の前まで戻って来た。親指を抑えにして小口を雨のように飛ばして見ると、黒い印気インキねずみの鉛筆が、ちら、ちら、ちらと黄色い表紙まで来て留った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白い紙の上に一点の暗い印気インキが落ちたような気がした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)