ただ)” の例文
旧字:
うぢやろ、然うぢやろ。」とおうなはまたうなずいたが、ただうであらうではなく、まさうなくてはかなはぬと言つたやうな語気であつた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
化石はその字面から言うとただ変化した石であるが、これに反して殭石は原と生きていた物が死んでも依然としてその遺骸が保存せられているという意味を表わしていて
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ただに普通一般の義のために責めらるるに止まらず、更に進んで天国と其義のために責めらる、即ちキリストの福音のために此世と教会とに迫害せめらる、栄光此上なしである
其の或者あるものは、高波たかなみのやうに飛び、或者はあみを投げるやうに駆け、と行き、さっと走つて、ほしいままに姉の留守の部屋をあらすので、悩みわずらふものはただ小児こどもばかりではない。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼の再臨を聞いて嘲ける人等は彼の此言辞を説明する事が出来ない、主イエスは単に来世を説き給う者ではない、彼れ御自身が来世の開始者である、彼はただ終末おわりの審判を伝え給う者ではない
学士がまりかねて立とうとする足許あしもとに、船が横ざまに、ひたとついて居た、爪先つまさきの乗るほどの処にあったのを、霧が深い所為せいで知らなかったのであろう、ただそればかりでない。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小屋のうちにはただこればかりでなく、両傍りょうわきうずたかく偉大な材木を積んであるが、そのかさは与吉のたけより高いので、わずか鋸屑おがくず降積ふりつもった上に、小さな身体からだ一ツ入れるより他に余地はない。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)