南風みなみ)” の例文
九月朔日ついたちの朝は、南風みなみ真当面まともに吹きつけて、縁側の硝子ガラス戸を閉めると蒸暑く、あけると部屋の中のものが舞上って為方しかたがなかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
強い南風みなみに吹かれながら、乱石らんせきにあたるなみ白泡立しらあわだつ中へ竿を振ってえさを打込むのですから、釣れることは釣れても随分労働的の釣であります。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兄哥の前だが、深川の殺しが神田まで匂ふやうな南風みなみは吹かないよ。——八幡樣へお詣りして、ちよいと矢場を
云いかけた時に、強い南風みなみが又もやどっと吹き寄せて来て、二人の顔をそむけさせたが、その風のなかで何を見付けたのか、吉五郎はあわててふた足三足かけ出した。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もし、あしたにも北風が吹こうものなら、われわれは獲物を満載して結氷前に帰るのだ。が、南風みなみが吹いたら……そうさ、船員はみんな命を賭けなければならんと思うよ。
(前略)何時しかも使の来むと待たすらむ心左夫之苦サブシク南風みなみふき(下略) (巻十八。四一〇六)
『さびし』の伝統 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
日がかたむくとソヨ吹きそめた南風みなみが、夜に入ると共に水の流るゝ如く吹き入るので、ランプをつけて置くのが骨だった。母屋の縁に胡座あぐらかいて、身も魂も空虚からにして涼風すずかぜひたる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ながせながさき流れて通れば、風は南風みなみで、さがり帆が早い、おしゃく沖からいかりを下ろす。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
相良玄鶯院さがらげんおういんは、熊手を休めて腰をたたいた。ついでに鼠甲斐絹ねずみかいき袖無着ちゃんちゃんこの背を伸ばして、空を仰ぐ。刷毛はけで引いたような一抹いちまつの雲が、南風みなみを受けて、うごくともなく流れている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
兄哥の前だが、深川の殺しが神田まで匂うような南風みなみは吹かないよ。——八幡様へお詣りして、ちょいと矢場を
しかも夕方から俄かにくもって、雨を含んだようななま暖かい南風みなみが吹き出した。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今日は久しりに晴れた。空には一片の雲なく、日は晶々あかあかとして美しく照りながら、寒暖計は八十二三度をえず、涼しい南風みなみが朝から晩まで水の流るゝ様に小止おやみなく吹いた。颯々さっさつと鳴る庭の松。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
トラピストの墓原の南風みなみ吹き唐黍の紅き毛のそよぐなり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この晩は夜なかから南風みなみが吹き出して、兵庫屋の庭の大きい桜の梢をゆすった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
午後筍買たけのこかいに隣村まで出かける。筍も末だ。其筈である、新竹しんちくびて親竹おやだけより早一丈も高くなって居る。往復に田圃たんぼを通った。萌黄もえぎえ出した苗代なわしろが、最早もう悉皆すっかりみどりになった。南風みなみがソヨ/\吹く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
津軽の海南風みなみ吹き晴れ午前なり汽船ゆきすすむその中道を
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蒸しにけり白き南風みなみを月かとも氣球うかびて夕あかり空
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
蒸しにけり白き南風みなみを月かとも気球うかびて夕あかり空
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
南風みなみよし葦と水田の中道は葭切も鳴けば蛙も鳴くもよ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)