卍巴まんじともえ)” の例文
観察者の頭が現象の中へはいり込んで現象と歩調を保ちつついっしょに卍巴まんじともえと駆けめぐらなければ動いているものはつかまえられない。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さて、勢いよく門の外へ飛び出した三人は、卍巴まんじともえと降る雪をね返してサッサと濶歩しましたけれども、米友は跛足びっこの足を引摺って出かけました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つづいて、鷹匠の手からもすけの鷹が二羽三羽。……白黒の一点と遙かになり、また池のみぎわまで舞いおり、飛びかい、追いかけ、卍巴まんじともえのように入りみだれる。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すると、千人の同じ博士がグルグルと、大グラウンドでのマス・ゲームのように、卍巴まんじともえとなって歩き廻るのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「この煙とも霧とももやとも分らない卍巴まんじともえの中に、ただ一人、うっすりとあなたのお姿を見ました時は、いきなり胸で引包ひっつつんで、抱いてあげたいと思いましたよ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
霊魂とがいつからともなく、どこからともなく卍巴まんじともえと入り乱れて参りまして、遂にはこの「狂人解放治療場」に於て、悽惨、無残、眼も当られぬ結末を告げるか
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文字通り卍巴まんじともえの戦いとなった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空にふらふらとなり、しなしなとして、按摩の手のうちに糸の乱るるがごとくもつれて、えんなまめかしい上掻うわがい下掻したがい、ただ卍巴まんじともえに降る雪の中をさかし歩行あるく風情になる。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたりは蝙蝠傘かうもりがさかついで、やごゑけて、卍巴まんじともえを、薙立なぎた薙立なぎた驅出かけだした。三里さんり山道やまみち谷間たにまたゞ破家やぶれや屋根やねのみ、わし片翼かたつばさ折伏をれふしたさまなのをたばかり、ひとらしいもののかげもなかつたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)