十八番おはこ)” の例文
思いどおりにたっぷりと中ぐしをとってしまうと、がぜん十八番おはこの右門流が、もうその次の瞬間から、小出しにされだしたのです。
十八番おはこの題目を進展させにかかったけれど、今日は相手が今までになくいらいらして、いっこう注意を払おうとしないのに気がついた。
「ええ。そうなんです。足の夢は新東さんの十八番おはこなんで……ヘエ。どうぞあしからずってね……ワハハハハハハハ」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「また十八番おはこがはじまったねえ。それはそうだろうけれど、両国の小屋では、何をやっておいでだときいているのさ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それが良人の十八番おはこだった。自分が鷓鴣しゃこに出あった場所を教えたり、ジョゼフ・ルダンテューの猟場に兎が一匹もいなかったことに驚いてみせたりした。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
いかに籠城が北条の十八番おはこでも、のびのびと屈托のない秀吉に対しては一向利き目がない。それどころか夫子ふうし自身、此のお家伝来の芸に退屈し始めて来た。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
けれど、それは、純友の十八番おはこなのだ。酔えば必ず出る語気や涕涙ているいであって、叡山の日と限ったことではない。ひとつの慷慨癖こうがいへきだろうくらいに将門は受けとっていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「がりがりひっいてやるし、みつくし、っとばす殴る、——みんなあたしの十八番おはこですもの、三人めのやつなんか耳へ噛みついて耳たぶを食い切ってやったわ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その上他に誰も出来ぬ、恐ろしい空を飛ぶ曲芸を、彼自身の十八番おはこにして仕舞ったのだから——。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼の十八番おはこである普通選挙のことをしゃべると、ガランとした会場がよけいめだった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
あの時そら貴方の前に「むべ山」があつたでせう? あれが私の十八番おはこですの。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼の十八番おはこは、何事にも成功しないことだった。それでかえって彼は何事をも笑ってすましていた。二十五歳にして既に禿頭だった。彼の父は一軒の家屋と一つの畑とを所有するに至った。
その歌はいわずと知れた彼女の十八番おはこの「赤い苺の実」の歌だった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「復た、阿爺おとっさんの十八番おはこが始まった」と母もそばへ来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まるで、十八番おはこだね。何か言やア、帰る帰る……」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
十八番おはこが出るんだろう。
さっそく場所がらもわきまえず十八番おはこのお株を始めましたものは、右門のいるところ必ず影の形に沿うごとくさし控えている例のおしゃべり屋伝六です。
じつは彼の十八番おはこの尾行術も、大部分は異常に発達したその鼻の力によるところが多かった。
那時あのときソラ、貴君の前に「むべ山」があつたでせう? あれが私の十八番おはこですの。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひどく不器用な手振りでいながら、仕舞の心得があるとみえて、おのずから足の踏みようは確かだと老妓が感心したことがある。見よう見真似の道念踊りが、いつか、お大尽の十八番おはこと云われていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「元園町の先生の十八番おはこが出ましたね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相当の成績をもって二人にまみえるためには——と、ここで性来うまれつき人なみ外れて身が軽く、それに山奥育ちで木登りは十八番おはこ、足も滅法早いところから、さっそく盗賊に早変り
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「また十八番おはこが出た。おれは風邪かぜをひきそうだ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此男然しが十八番おはこだ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そう信じこんでいる者へ向かって、「いえ、わたしは狂気ではありません」と弁解しようものなら、さてこそ、狂人の十八番おはこが始まったとばかり、いっそう狂人扱いされるのみ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あなたの口癖くちぐせ十八番おはこじゃアありませんでしたかしら? それに何です? その江戸ッ児の、黒門町の心意気はどこへ行ったのです? そりゃあこのお方は、いま江戸中の目あかしが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)