しきり)” の例文
裾模様すそもようの貴婦人、ドレスの令嬢も見えたが、近所居まわりの長屋連らしいのも少くない。印半纏しるしばんてんさえも入れごみで、席にしきりはなかったのである。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奧樣が起きて來る氣色がしたので、大急ぎに蒲團を押入に入れ、しきりの障子をあけると、『早いね。』と奧樣が聲をかけた。お定は臺所の板の間に膝をついてお叩頭じぎをした。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あり——ありがたう。」と、苦しさうに云ひながら、感謝の微笑を湛へようとしたが、それはしきりなく襲うて来る苦痛の為に、跡なく崩れてしまつた。はらわたをよぢるやうな、苦悶の声が、続いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
シイトの薄萠黄うすもえぎの——もつとふるぼけてはたが——天鵝絨びらうどしきりを、コチンとまどげると、紳士しんし作法さはふにありなしは別問題べつもんだいだが、いゝ頃合ころあひまくらる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
奥様が起きて来る気配がしたので、大急ぎに蒲団を押入に入れ、しきりの障子をあけると
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あり——ありがとう。」と、苦しそうにいながら、感謝の微笑をたたえようとしたが、それはしきりなく襲うて来る苦痛のために、跡なく崩れてしまった。はらわたをよじるような、苦悶くもんの声が、続いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山の上の墓地にして、まばらな松がおのずから、墓所はかしょ々々のしきりになる。……一個所、小高い丘の下に、みので伏せて、蓑の乱れたような、草のおどろに包んだ、塚ともいおう。
大土間の内側を丸太でしきった——(朝市がそこで立つ)——そのしきりの外側を廻って、右の権ちゃん……めくらじま筒袖つつッぽ懐手ふところで突張つっぱって、狸より膃肭臍おっとせいに似て、ニタニタとあらわれた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身を起して、寄ると、塚を前にほとんど肩の並んだ振袖は、横へ胸を開いて、隣地との土の低いしきりへ、無雑作に腰を掛けた。こぼれ松葉はとまのように積って、同じ松蔭に風の瀬が通った。