劃然かくぜん)” の例文
当時、私のこんなふしだらな有様は、会社の者は誰も知らないはずでした。家に居る時と会社に居る時と、私の生活は劃然かくぜんと二分されていました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さればこの人は芸文に劃然かくぜんたる一新機軸を出しし者にして同代の何人よりも、その詩、哲理に富み、譬喩ひゆの趣を加ふ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
明治九年の太政官のお布令ふれで、神仏を劃然かくぜんと区別し、神社の境内から、抹香臭いものは悉く追い出されました。
支那に至っては、上古より竜蛇の区別まずは最も劃然かくぜんたり。後世日本同様異常の蛇を竜とせる記事多きも、それは古伝の竜らしき物実在せぬよりの牽強こじつけだ。
秀吉は近畿から西国と、その勢力範囲は劃然かくぜんとしているように見えるが、彼の本拠地たる大坂表のうちにすら、徳川方へ気脈を通じているものは無数であろう。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、劃然かくぜんとではないが、もうそのあたりは大門通りとはよばなかった。大門通りの突当りといった。
一所劃然かくぜんと林が途切れそこにたたえられた池の水が蒼空が落ちて融けたかのように物凄いまでに碧いのも
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「男の事業」「女のおしゃれ」と社会的に劃然かくぜんと区別がついていて、女は男の世界とその事業には無知であっていいどころか、その方が可愛いことになっているんだが
字で書いた漫画 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
禁令の打撃に長閑のどかな美しい戯作げさくの夢を破られなかった昨日きのうの日と、禁令の打撃に身も心も恐れちぢんだ今日きょうの日との間には、劃然かくぜんとして消す事のできない境界さかいができた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しからば理屈とは知のいかなる部分かというに劃然かくぜんとその限界を示すあたわざれども、要するに知の最も複雑したる部分が程度の高き理屈にて、それが簡単になればなるほど
あきまろに答ふ (新字新仮名) / 正岡子規(著)
附加したものにも劃然かくぜんたる領域があって、互いに入交ってはおらぬのを見ると、土筆を見て法師の姿を聯想れんそうする習わしは、少なくとも近畿その他のツクシ・ツクツク区域等には
周囲が周囲だけに、モダンな表構えの家が、劃然かくぜんと目に立っていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
劃然かくぜんと引かれて、迷いようもなくなった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
この城の特質は、三つの曲輪くるわがふつうの城よりも、劃然かくぜんと、各〻独立しておるように分れていることです。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いはく、宗教にして、し、万世不易ふえきの形を取り、万人の為め、あらかじめ、劃然かくぜんとしてそなへられたらむには、精神界の進歩は直に止りて、いとふべき凝滞はやがてきたらむ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
それゆえに善悪可否巧拙と評するももとより劃然かくぜんたる区別あるに非ず、巧の極端と拙の極端とはごうまぎるるところあらねど巧と拙との中間にあるものは巧とも拙とも申しかね候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
従って、鳥羽から先では、乗物から扱いまで、劃然かくぜんと、待遇がちがっていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)