刺々とげとげ)” の例文
中にはただ少しのつまらぬ物がはいっていた、青い麻の仕事着と、古いズボンと、古い背嚢はいのうと、両端に鉄のはめてある大きな刺々とげとげの棒とが。
彼女は、幸福に優しく抱擁される代りに、恐ろしく冷やかに刺々とげとげしい不調和と面接し、永い永い道連れとならなければならなかったのである。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
頬のあたりに刺々とげとげしいものがあるが、それを除くと、平和といってもいいようなおだやかな顔でしずかな寝息をたてていた。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
だしぬけに云つたりしてどうする金か、と幾がむつとして訊くと、どうだつていゝ、と軍治は痩せたとも見える頬に刺々とげとげしいあざけりの色を見せた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
子供に乳房を含ましたり頬ずりをしたりしながら、私の方へじろりと投げる妻の眼付に、私は或る刺々とげとげしいものを感じて、ぞっとするようなことがあった。
或る男の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
まわればまわられるものを、恐しさに度を失って、刺々とげとげの枝の中へ片足踏込ふんごんあせって藻掻もがいているところを、ヤッと一撃ひとうちに銃を叩落して、やたらづきに銃劔をグサと突刺つッさすと
葉子があまり刺々とげとげしい口を利くので、を感じていた庸三は、神経にぴりっと来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どことなく刺々とげとげしい、つねに反抗的な身構えで誰にでも突つかゝろうとした彼女の態度は、まつたく今はみられず、たとえずけずけ物を言うにしても、ヒステリカルな暗い影などは
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
この連絡駅は、いつも刺々とげとげしく緊張していた。東京行の列車がはるか向うに見えて三四丁もあるホームには、見送りの群衆の鼻ッ先に、一群の男達が無遠慮に旅客達をニラめていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
それでも彼らはたがいに自分の感銘を隠そうと努めた。クリストフはやって来るのをやめなかった。ジャックリーヌは意地悪い刺々とげとげした小さな矢を、なんの気なしに彼へ投げつけた。
ちょっと刺々とげとげしく思われるものの、それがバンプに似つかわしい、スッと高く長い鼻、その左右にえくぼがあって、キュッと結べば深くなり、ほころばせれば浅くなる、そういう可愛い特徴を持った
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なあ、カテリーナ! どうもお前の阿父おとつつあんは俺らと仲よく暮すのが、面白くないらしいぢやないか。帰つて来た時からして、妙に気難かしく、まるで何か怒つてゐるやうに刺々とげとげしてゐる……。
拾う栗だから申すまでもなくいがのままのが多い。別荘番の貸してくれた鎌で、山がかりに出来た庭裏の、まあ、谷間で。御存じでもあろうが、あれは爪先つまさき刺々とげとげを軽くおさえて、手許てもとへ引いてく。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高氏は刺々とげとげと心でののしる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名音の声は刺々とげとげしかった。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがて室の中と正面の壁とは、まっかなゆらめく大きな火影ほかげで照らされた。すべてのものが燃え出したのである。刺々とげとげの棒は音を立てて室のまんなかまで火花を投げた。