初穂はつほ)” の例文
旧字:初穗
……甲斐へ凱旋がいせんして間もなく、東堂舎人助は娘の初穂はつほと栃木大助との婚約の披露をした。これは真冬の雷のように人々をおどろかした。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と隠居は財布のヒモをほどいて、定めのお初穂はつほ百二十文もん敬々うやうやしく差上げて立ち帰りました。ところが待てど暮らせど失せ物は現れません。
初穂はつほはまず家の神棚かみだなに上げるほかに、必ず田の水口の簡略なる祭壇に、木の葉などを敷いて供えるのが常の例である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
毎年、領地の三河から初穂はつほを持って出てくる郷里の領民からは、氏神のように、尊敬されている父でもある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神前へのお初穂はつほ供米くまい、その他、着がえの清潔な行衣ぎょういなぞを持って、半蔵は勝重と一緒に里宮の方へ歩いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おかげさまで、すっかり当ってしまいました。これで、わたしの胸も、すっかり透いてしまいました。就きましては早速、心ばかりのお初穂はつほを差上げまするつもりで……」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「きょうは一月遅れの七夕たなばたですから、初穂はつほとして早出来の甘藷を掘って見ました。」
初穂はつほ、野菜、尾頭付の魚、供物ぐもつがずつとならんで、絵行燈ゑあんどんや提灯や、色色の旗がそこ一杯に飾られて、稍奥まつた処にあるほこらには、線香の烟がまうとして、蝋燭の火がどんよりちらついて居る。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
その勢いに乗っておあばれだしになって、女神がお作らせになっている田のあぜをこわしたり、みぞをめたり、しまいには女神がお初穂はつほしあがる御殿ごてんへ、うんこをひりちらすというような
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
が、思ひも掛けない出来事のために、大分の隙入ひまいりをしたものの、船に飛んだこいは、其のよしをことづけて初穂はつほと言ふのを、氷詰めにして、紫玉から鎌倉殿へ使つかいを走らせたほどなのであつた。——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とりわけお好みになりまするは、各国、各人種のお初穂はつほでございまして国別にいたしましてその国の最初の登山者の人命は、必ずお取りあげになるというのが古来アルプスの山のおきてでございます。
「すずめよ、毎年まいねんこれからいね初穂はつほをつむことをゆるしてやるぞ。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
馳走ちそうしお初穂はつほを上げておはらいをしたものである
その初穂はつほを五六本、木の葉に載せて清い処に供えて置き、それから一同が心のままに食うのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いけねえよ……おめえのお強飯こわは食べ残しなんだろう、自分の食べ残しを、人に食べさせるなんてことがあるかい、人にあげるには、ちゃんとお初穂はつほをあげるもんだよ、お初穂を——食べ残しを
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紙に包んだ金何疋のお初穂はつほが山のように積まれました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)