くぼみ)” の例文
蹴爪即ち隆起が臼の杵とくぼみとを現しているのである。彼は然し、この構造を精巧な鏡玉で見て大きによろこんでいた。
井深はじっとその口元を見つめた。全く画工えかきの光線のつけ方である。薄いくちびるが両方のはじで少しかえって、その反り返った所にちょっとくぼみを見せている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新潟にひがたより三里上りて赤塚あかづか村といふあり、山のところ/″\にくぼみをなしたるあり、こゝにくひをたてゝ細糸ほそいとあみをはりて鳥をとる、これを里言に赤塚あかづかの天の網といふ。
やがて、初夜すぐるまでは、縦横に乱れ合った足駄駒下駄こまげたあとも、次第に二ツとなり、三ツとなり、わずかにくぼみを残すのみ、車のわだち遥々はるばると長き一条の名残なごりとなった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岩下或は渓間に一小屋せうおくを構臼を長柄杵ながえぎね(大坂踏杵ふみきね也)を設け、人のふむべき処にくぼみをなして屋外に出す。泉落て凹処降る故、たちまち水こぼる。こぼれて空しければ杵頭しよとう降りて米穀ける也。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此村にかたあるゆゑ、水鳥かたしたひてきたり、山のくぼみとびきたり、かならず天の網にかゝる。大抵は𪃈あぢといふかもたる鳥也、美味びみなるゆゑ赤塚の冬至鳥とうじとりとてとほ称美しようびす。
路はその雑木の中に出つりつ、糸を引いて枝折しおりにした形に入る……赤土の隙間すきまなく、くぼみに蔭ある、樹の下闇したやみ鰭爪ひづめの跡、馬は節々通うらしいが、処がら、たつうろこを踏むと思えば
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)