余人よじん)” の例文
旧字:餘人
けれど、藤夜叉とのひそごとも、余人よじんならぬ右馬介一人の胸にたたまれているぶんにはと、そこは腹心の郎党のよさ、ひそかに多寡たかはくくられる。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余人よじんならばともかくも、日頃から兄の悪友と睨んでいる半九郎の仲裁を、源三郎は素直に承知する筈はなかった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうしたら余人よじんはともかくお前にだけはこの顔を見られねばならぬと勝気な春琴も意地がくじけたかついぞないことになみだを流し繃帯の上からしきりに両眼を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
死人というのは余人よじんでなく、わたしがこれほどに深く、また烈しく恋していたクラリモンドであったからです。
がらがら声で団長セキストン伯爵があいさつをした相手を見れば、余人よじんならず、玉太郎だった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大「えゝとうより此の密書が拙者の手に入って居りますが、余人よじんに見せては相成らんと、貴方の御心中を看破みやぶって申し上げます、どうか罪に陥らんようにお取計いを願いとうござる」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
またあるいは音にひびいた軍学者小幡が、はたしてどんな奇策きさくを胸にめているか、それは余人よじんがうかがうことも、はかり知ることもできない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幽霊のすがたは俳優の眼にみえるばかりで、余人よじんには見えないのであるから、俳優は案内者として先に立って行くと、幽霊は町を離れて野道にさしかかる。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それこそ余人よじんならず醤買石だったことは、今ここに改めて申すまでもなかろう。
かみおかし奉り、上を立ちふさいで、自身が臣下の万歳をうけるなどという思い上がった態を見ては、余人よじんは知らず、関羽は黙止しておられません。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの肩をたたいた者は余人よじんならず、『宇宙の女王クィーン』号にのってでかけた探検隊長のサミユル博士だった。その『宇宙の女王』号が、悲壮ひそうなる無電をとちゅうまで打って、消息をたった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
「かくまで手をつくしながら、とうの呂宋兵衛を取り逃がしたとあっては、若君に対しても面目めんぼくない、者ども、余人よじんには目をくれず、呂宋兵衛を取りおさえろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この顛末てんまつを聞いて、からからと笑ったのは余人よじんならぬ金博士であった。
これを冷静れいせいにみるという伊那丸いなまるのことばは、余人よじんなら知らずこのの多い人たちへは、無理むりないましめ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは余人よじんではなく、松葉杖まつばづえをついた醤だった。
余人よじんなら知らぬこと、わしが通るに、なんでさしつかえがあろう。お昼寝中でもかまわん」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余人よじんねたみをおそれておるか。それもうるさいことだ。しかし要は信長のこころ一つにある。まっすぐに、所存をいうてみい。……いや、よい策があらば、聞かせてくれい」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初太刀しょだちをつけたのはこの有村、余人よじんに功を奪われてなるものか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)