ぼとけ)” の例文
旧字:
八歳か九歳くさいの時か、とにかくどちらかの秋である。陸軍大将の川島かわしま回向院えこういんぼとけ石壇いしだんの前にたたずみながら、かたの軍隊を検閲けんえつした。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「は、は、は……佐原屋さん、ひどい目にあいなすったね。それじゃア濡れ鼠どころじゃない、まるで、ぼとけだ」
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし彼らがひとたび化銀杏の下を通り越すやいなや急にぼとけとなってしまう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わざわざ城下へ出て行って、生命いのち握飯むすびとかいうものを、餓死うえじにしそうな人達へ振る舞ってやるということじゃ。それで城下の馬鹿どもはお前を如来の産まれ変わりだのぼとけだのと云うそうじゃ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私と日名子氏とだけが浜脇で下車して、そこの腰掛茶屋で蠅のたかっておるすしと生卵で腹をこしらえ、金比羅こんぴら山の南北両方面にある横穴すなわちカンカンぼとけの横穴およびその附近の横穴を一見した。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ぼとけ建立こんりついたしたという。
一度の経験でも御多分ごたぶんにはれん。箔屋町はくやちょうの大火事に身代しんだいつぶした旦那は板橋の一つ半でもあおくなるかも知れない。濃尾のうびの震災にかわらの中から掘り出されたぼとけはドンが鳴っても念仏をとなえるだろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)