仏弟子ぶつでし)” の例文
仏弟子ぶつでしの法業とが、渾然こんぜんと、一つものになって、一韻いちいんかねにも、人間のよろこびが満ちあふれているように洛内の上を流れていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はこの人が仏弟子ぶつでしながら氏神をも粗末にしないで毎月朔日ついたち十五日には荒町あらまちにある村社への参詣さんけいを怠らないことを知っていたし
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
命が助かっても必ず仏弟子ぶつでしになっていたに違いない、今思ってみればきわめて深い思慮のある方であった、父宮も姉君も自分をこの上もない
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すると、少年僧は恐るるけはいもなくちょこちょこと前へ進みながら、さすがは作法に育てられた仏弟子ぶつでしだけあって、活発にあいさつをいたしました。
三月堂や戒壇院の四天王、あるいは興福寺の八部衆、傑僧の諸像、また仏弟子ぶつでしの像や鎌倉の諸像をみるとき、私はこの方が比較に都合よいように思う。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「世尊よ、私はどうしてこんなに愚かな人間でございましょうか。私はもうとても仏弟子ぶつでしたることはできません」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
が、この苦艱くげんを受けているのは、何もおれ一人に限った事ではない。おれ一人衆苦しゅうくの大海に、没在ぼつざいしていると考えるのは、仏弟子ぶつでしにも似合わぬ増長慢ぞうじょうまんじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
七九仏弟子ぶつでしを害するためしやある。
生涯しょうがいの生活に事を欠かない準備は十分にしておいて、そして一方では仏弟子ぶつでしとして感心に修行も積んでいるようです。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
恋を——女への仏弟子ぶつでしのそういう態度を、極端に冷蔑れいべつし、むしろしゅうにさえ考えている三人には、石念のそれからの挙動が、ことごとにおかしくて、馬鹿らしくて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半月はんつきばかりたったのち祇園精舎ぎおんしょうじゃに参った給孤独長者きゅうこどくちょうじゃは竹や芭蕉ばしょうの中のみちを尼提が一人歩いて来るのに出会った。彼の姿は仏弟子ぶつでしになっても、余り除糞人じょふんにんだった時と変っていない。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
禅宗曹洞派そうどうはの流れをうけた男禁制の清浄このうえない尼僧道場で、当時ここに仏弟子ぶつでしとなって勤行ごんぎょう観経かんきん怠りない尼僧たちは、無慮二百名にも及ぶと注せられたほどでしたが、それかあらぬか
昔の人も身にしむものに見た明石の浦の朝霧に船の隔たって行くのを見る入道の心は、仏弟子ぶつでしの超越した境地に引きもどされそうもなかった。ただ呆然ぼうぜんとしていた。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「おいっ、勘弁しろ。おれはもう元の天城四郎じゃなかった、仏弟子ぶつでしだ、このとおりあやまる——」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれはあの一瞬間、康頼やすよりにも負けぬ大嗔恚だいしんいを起した。少将は人畜生じんちくしょうじゃ。康頼もそれを見ているのは、仏弟子ぶつでし所業しょぎょうとも思われぬ。おまけにあの女を乗せる事は、おれのほかに誰も頼まなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
未来の世のためにいっさいを捨てて仏弟子ぶつでしの生活にもおはいりになりたいのであったが、ただ二女王をこのままにしておく点に御不安があって、深い信仰はおありになっても
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「とんでもない仏弟子ぶつでしだ。こら智深、ここは山門だぞ、山門だぞよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)