仇敵あだがたき)” の例文
親身のお父さんでさへ、あたしには仇敵あだがたきもおんなしだわ——好きでもない波蘭人のとこなんかへ無理やりお嫁に行かせようとするんだもの。
「金吾はおめえと仇敵あだがたき、きゃつを生かしておくことは、身のあぶないばかりでなく、夜光の短刀をさがす上にもだれより邪魔になると思うが」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首卷くびまきのはんけちにわかにかげして、途上とじよう默禮もくれいとも千ざい名譽めいよとうれしがられ、むすめもつおや幾人いくたり仇敵あだがたきおもひをさせてむこがねにとれも道理だうりなり
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つまり、六郎氏は、一冊の「屋根裏の遊戯」によって、一方では彼の病癖のこよなき知己を、一方では彼にとっては憎むべき昔の恋の仇敵あだがたきを、同時に発見したのです。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
下枝が死を宣告され、仇敵あだがたきの手には死なじとて、歎きもだゆる風情を見て、咄嗟とっさいつの奇計を得たり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見屆て參つたりれども御出家の儀なれば人をかくまうは道理もつともの事なるが私し共の爲には親分の仇敵あだがたきなれば何卒どうぞ出して御渡し下さるべしと押返おしかへして申けれども住持はかしら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もつとみにくく美しくゑてひそめる仇敵あだがたき
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
正成と別れても——とまでしているものを抑えれば、当然、一族は真二ツに割れ、骨肉同士、仇敵あだがたきともなりかねない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊氏さまとは生前、ともに天をいただかぬ仇敵あだがたきとまで世上にいわれていた正成どのの妹。そのようなところへじるのは、後に世間の聞えもいかがでしょうか。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆賊の性根しょうねは幾皮いても逆賊ときまったものだ。尊氏と義貞とは、朝家に誓いたてまつる根本の信念でも、またいかなる点でも、ともに天をいただかざる仇敵あだがたき這奴しゃつ
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親鸞といい——その四郎の生信房といい——共に弁円の心頭をあおる毒炎のうち仇敵あだがたきである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その点でも両者が永遠の仇敵あだがたきとならざるをえぬ宿命はくにお覚悟だったに相違なかろう
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その二人は登雲山の草寇ぞくじゃないか。登州守備軍に籍をおく俺とは日頃からの仇敵あだがたきだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)