交情なか)” の例文
速記では「お前お母と交情なか好く何卒辛抱して稼いでおくんなさいよ、よ」と言葉をそっくりおしまいまでいってしまっているが
こう云うたかて、多一さんと貴女あんたとは、前世から約束したほど、深い交情なかでおいでる様子。今更ではあるまいけれど、私とは不思議な御縁やな。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田舎から出て来てからは、磯野も比較的落ち着いて勉強していたし、お増の事件さえなければ二人の交情なかは何のこともなく続けられたかも知れなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
熊谷町くまがやまちにもかれの同窓の友はかなりにある。小畑おばたというのと、桜井というのと、小島というのと——ことに小畑とはかれも郁治も人並みすぐれて交情なかがよかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ところが源三と小学からの仲好なかよし朋友ともだちであったお浪の母は、源三の亡くなった叔母と姉妹きょうだい同様の交情なかであったので、が親かったもののおいでしかも我が娘の仲好しである源三が
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
聞けばこの奥様の前に、永いこと連添った御方も有たとやら、無理やりの御離縁も畢竟つまりは今の奥様ゆえで、それから御本宅と新宅の交情なかが自然氷のように成ったということでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お前さんでも貞婦ていふ両夫にまみえずということがあるは知ってるでしょう、私だって左様そうだわ、一旦伊之さんとあんな交情なかになったんだもの、世間の義理で切れましょうと云ったって
「しますると、兼吉と小米との交情なか如何いかが致したと申すのでげすナ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それが物変り星移りの、講釈のいいぐさじゃあないが、有為転変、芳原でめぐりあい、という深い交情なかであったげな。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二、三日はこういう風の交情なかが続く。新吉はフイと側へ寄って、お作のほおに熱いキスをすることなどもある。ふと思いついて、近所の寄席よせへ連れ出すこともあった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
郁治と清三と話している間は、話に気がおけないので、よく長くそばにすわっているが、他人がまじるとすましてしまうのがつねである。それほど清三と郁治とは交情なかがよかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
男同士でも交情なかくって手を曳合ひきあって歩いても、わきの人とこそ/\耳こすりでもされますと男同士でも嫉妬ちん/\を起して、あれ茂山しげやま氏のそばへばかり往って居る、一体彼奴あいつは心掛けが宜くない
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近隣の人は皆年久しく住みたれど、そこのみはしばしば家主かわりぬ。さればわれその女房とはまだ新らしき馴染なじみなれど、池なる小魚こうおとは久しき交情なかなりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そりゃ伊之さんとの交情なかもよく知っているから、今までは他の人達がなんのかのと言って意見しているのを知らず顔でいたんだがね、今日のように内所ないしょで折檻されるを何うも見てはいられないから
菊坂下の豆腐屋の水船みずぶねの上へ捨児すてごにして、私はぐ上総の東金へ往って料理茶屋の働き女に雇われて居る内に、船頭の長八ちょうはちという者といゝ交情なかとなって、また其処そこをかけ出して出るような事に成って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)