不了簡ふりょうけん)” の例文
不了簡ふりょうけんの挙動、自業自悔じごうじかい、親類のほかは町内にても他人への面会は憚り多く、今もって隣家へ浴湯にも至り申さざるほどに御座候。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不了簡ふりょうけんな、凡杯も、ここで、本名の銑吉せんきちとなると、妙に心があらたまる。すすつらも洗おうし、土地の模様も聞こうし……で、駅前の旅館へ便たよった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その忠助に商売の割合をば約束もせずして、子供のごとくにこれを扱わんとせしは旦那の不了簡ふりょうけんと言うべきなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
書き割りを背にして檜舞台ひのきぶたいを踏んでフートライトを前にして行なって始めて調和すべき演技を不了簡ふりょうけんにもそのままに白日のもと大地の上に持ち出すからである。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「なぜって、世の中に商売もあろうに、饂飩屋になるなんて、第一それからが不了簡ふりょうけんだ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この「ガ」の先にはどんな不了簡ふりょうけんひそまッているかも知れぬと思えば、文三畏ろしい。物にならぬ内に一刻も早く散らしてしまいたい。シカシ散らしてしまいたいと思うほど尚お散りかねる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
翌日阿園は村をけ廻り、夫の心をめぐらすべく家ごとに頼みければ大事は端なくも村にれぬ、媒妁人ばいしゃくにんは第一に訪ずれて勇蔵が無情を鳴らし、父老は交々こもごも来たりて飛んで火に入る不了簡ふりょうけんを責め
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
何処どこに居るかね、不了簡ふりょうけんをしちゃいかんぞ。わしに相談をして呉れんか」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いかに石が名所でも、男ばかりでが出来るか。何と、あねや、と麦にかくれる島田をのぞいて、天狗てんぐわらいにえて来ました、面目もない不了簡ふりょうけん
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
政府のためを謀れば、はなはだ不便利なり、当人のためを謀れば、はなはだ不了簡ふりょうけんなり。今の学者は政府の政談の外に、なお急にして重大なるものなしと思うか。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
朝晩お顔を見ていちゃ、またどんな不了簡ふりょうけんが起るまいものでもない、という遠慮と、それに肺病の出る身体からだ、若い内から僂麻質リョウマチスがあったそうで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は串戯じょうだんだけれどもね、うっかり、人を信じて、生命いのちの親などと思っては不可いけません。人間は外面そとづらに出さないで、どういう不了簡ふりょうけんを持っていないとも限りません。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し気取るようだけれど、ちょっと柄にない松島見物という不了簡ふりょうけんを起して……その帰り道なんです。——先祖の墓参りというと殊勝ですが、それなら、行きみちにすべき筈です。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい、はい、御尤ごもっともで。実はおかを参ろうと存じましてございましたが、ついこの年者としよりと申すものは、無闇むやみと気ばかりきたがるもので、一時いっときも早く如来様にょらいさまが拝みたさに、こんな不了簡ふりょうけんを起しまして。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一旦いったんうちへ帰ってから出直してもよし、直ぐに出掛けても怪しゅうはあらず、またと……誰か誘おうかなどと、不了簡ふりょうけんめぐらしながら、いつも乗って帰る処は忘れないで、くだんの三丁目にたたずみつつ、時々
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)