下屋しもや)” の例文
遠い疎林そりんの方から、飛鳥のような迅さの物が大庭をぎって、客殿の北端れにある水仕みずしたちの下屋しもやの軒下へさっと隠れこんだようだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
召使どものいる下屋しもやへ行ってみると、看護婦と下婢がひとかたまりになり、生きた空もないようにすくまっていた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「皆下屋しもやのほうへやってしまったのですが、間にあいませんで一部分だけは残っているかもしれません」
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一六九下屋しもやの窓の紙にさと赤き光さして、あなにくや、ここにもしつるよといふ声、深き夜にはいとどすざましく、かみ一七〇生毛うぶげもことごとく聳立そばだちて、しばらくはりたり。
「では、きっと下屋しもやしゅうの中に交じって、柿ムキに興がっているのでございましょう。ひる見たときも、手の指を渋で黒うしておりましたから」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちは下屋しもやのほうに住んでおりますが、しかし今年の春ごろから内大臣さんが近くへ御堂みどうの普請をお始めになりまして、あすこはもう人がたくさん来る所になっておりますよ
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
男といえば、老蔵人ろうくろうどすら遠い所の下屋しもやへへだてられ、四門はかたくとざされ、近侍の公卿もみな、旧官舎のような建物のうちへ押しこめられた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忌中だけこもっている僧たちは東の座敷からそちらの廊の座敷、下屋しもやまでを使って、わずかな仕切りをして住んでいた。西の端の座敷を急ごしらえの居間にして宮はおいでになるのである。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こなたの廊の端へ来た草心尼は、びッくりして、いちどは下部しもべのいる下屋しもやへと走りかけたが、そんな処置の間にあわないのを見ると、われを忘れて。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右馬介の柳斎もまた、宴の端にいたが、そこの杯盤狼藉はいばんろうぜきのすきを窺い、宵にいちど、じぶんの下屋しもや退がって、灯もない中で阿新丸とささやいていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右馬介は一たん下屋しもやへさがって、密かに身軽なよそおいをととのえ、約束の搦手からめてほりへ行って、阿新が来るのを待った。……ほどなく、妙宣寺の鐘も聞えてくる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右馬介はその日から、たち下屋しもやに冬中の住居を与えられた。そして、城内の土蔵つちぐらにある武具を、本間三郎が奉行となって、家来をとくしては、取り出すのである。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下屋しもやの郎党から、一色右馬介が訪ねて来たと、高氏に告げてきた。すでに彼は別間へ入りかけていたが
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、洩らすなど、とにかく下屋しもや釜殿かまどののお末まで、盆と正月がいちどに来たような明け暮れだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「侍部屋や下屋しもやの者も、こよいは皆、三日三夜の眠りを、いちどにとっているのでございましょう」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母屋おもやの縁だけでなく、書院の廊から下屋しもやの方にも家臣の顔がいっぱいだった。水分みくまりの大家族はほとんど揃ッたかんがある。龍泉の正季まさすえも家来をつれて書院廊の角に坐っていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ二人の若党が、下屋しもやからくわを持って来て、柿の根廻りを掘りおこし、素縄すなわからげに根を巻きおえたが、しかし「……なんのために?」と、みないぶかしげな顔をしていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて彼女を館の下屋しもやまで召つれて来た折には、客を伴うように、いたわり慰めた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「良忠、この者を下屋しもやへさげて、当座のほうびに、酒でもうんと飲ませてやれ」
「……や、ここへもまぎれ入りましたか。昨夜、小盗人が二、三下屋しもや献物けんもつを狙いに這い込みましたゆえ、これは、そやつの物でございましょう。ご安心ください。ほかに別条はございませぬ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからすぐ、彼は侍部屋から下屋しもやへまで、何かどなり廻っていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊王と助光は、下屋しもやの縁で、その者どもの影を睨んでいた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかり、出迎えながら、一方では下屋しもや妓部屋おんなべやへ向い
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下屋しもやへ退げろ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)