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下切
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おりき
大手筋を
下切つた
濠端に——まだ
明果てない、
海のやうな、
山中の
原を
背後にして——
朝虹に
鱗したやうに
一方の
谷から
湧上る
向ふ
岸なる
石垣越に、
其の
天守に
向つて
喚く……
急に
何だか
寂しく
成つて、
酔ざめのやうな
身震ひが
出た。
急いで、
燈火を
当に
駆下りる、と
思ひがけず、
往には
覚えもない
石壇があつて、
其を
下切つた
処が
宿の
横を
流れる
矢を
射るやうな
谿河だつた。
更に遠く来た旅を知りつつ、沈むばかりに階段を
下切った。