上屋敷かみやしき)” の例文
わしが親と知れてはぱっとして上屋敷かみやしきへ知れては相成らぬから、何卒どうぞ親でない事に致したい、それにはお前方が確かな証人だに依って
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仰付おほせつけられけるにぞ徳太郎君をも江戸見物えどけんぶつの爲に同道どうだうなし麹町なる上屋敷かみやしき住着すみつけたり徳太郎君は役儀もなければ平生ふだんひまに任せ草履取ざうりとり一人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……神田川をへだてて、むかいは松平越前守えちぜんのかみ上屋敷かみやしき。……西どなりは、鞘町さやまち、東どなりは道路をへだてて石町こくちょう……。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
坂本はすぐに城の東裏にゐる同じ組の与力同心に総出仕そうしゆつしの用意を命じた。間もなく遠藤の総出仕の達しが来て、同時に坂本は上屋敷かみやしきへ呼ばれたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
どうやらおぼえのある地図——その下に、一行の文字が走っていて、武蔵国むさしのくに江戸えど麻布あざぶ林念寺前りんねんじまへ柳生藩やぎうはん上屋敷かみやしき
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そう云えば、細川家には、この凶変きょうへんの起る前兆が、のちになって考えれば、幾つもあった。——第一に、その年三月中旬、品川伊佐羅子いさらご上屋敷かみやしきが、火事で焼けた。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それで、余の船出も心安い。何かのことども、江戸表へ立ち廻った節上屋敷かみやしきの重役どもに、計ろうて貰うがよい」と座を立って、三位卿と共に船楼ふなろうおばしまに立つ阿波守。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは幕府が大名の奥方、姫君などをかごの鳥同様、人質ひとじちとして丸の内上屋敷かみやしき檻禁かんきんさせていたので、美しき女の伝もつたわらぬのでもあれば、時を得て下層の女の気焔きえんが高まったのでもあろう。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
遠藤は公用人畑佐秋之助はたさあきのすけに命じて、玉造組与力で月番つきばん同心支配をしてゐる坂本鉉之助げんのすけ上屋敷かみやしきに呼び出した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ご隠居さまが渡らせられると、何となくこの上屋敷かみやしき全体がはなやぐような」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昌平しょうへいかせてもじきに出来るだろうが、今日一日のことだからと有助を駈けさせて買いにつかわし、大小はもとより用意たしなみがありますから之をして、翌朝よくあさの五つ時に虎の門のお上屋敷かみやしきへまいりますと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あなたが芝田村町の上屋敷かみやしきを出られたのが、けさの五つ半。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かしら申付まをしつけなら、拙者は誰のしたにでも附いて働きます。その上叛逆人ほんぎやくにんが起つた場合は出水しゆつすゐなどとは違ひます。貴殿がおことわりになるなら、どうぞお一人で上屋敷かみやしきへおいでになつて下さい。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
で、騒がしいお上屋敷かみやしきよりは、この代々木荘なれば養生にもよし、人目にもつかぬであろうという、御当家のお取り計らいで、ちょうど、今日駕にのせて、ひそかにここへ移してまいる筈……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)