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よろづよばし
萬世橋へ
參りましたがお
宅は
何方と
軾を
控へて
佇む
車夫、
車上の
人は
聲ひくゝ
鍋町までと
只一言、
車夫は
聞きも
敢へず
力を
籠めて
今一勢と
挽き
出しぬ
さても
怪しや
車上の
人萬世橋にもあらず
鍋町にもあらず
本銀町も
過ぎたり
日本橋にも
止まらず
大路小路幾通りそも
何方に
行かんとするにか
洋行して
歸朝の
後に
妻を
馳せ
出す
車一散、さりながら
降り
積る
雪車輪にねばりてか
車上の
動搖する
割に
合せて
道のはかは
行かず
萬世橋に
來し
頃には
鐵道馬車の
喇叭の
聲はやく
絶えて
京屋が
時計の
十時を
報ずる
響空に
高し