つる)” の例文
駕籠舁どもは大いにわらひコレ旦那だんなどうした事をいひなさる此道中は初めてと見えるゆゑ夫リヤア大方おほかた此宿の者が御客をつるつもりの話しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ある殿との領分巡回りょうぶんめぐりの途中、菊の咲いた百姓家に床几しょうぎを据えると、背戸畑せどばたけの梅の枝に、おおきな瓢箪がつるしてある。梅見うめみと言う時節でない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金と男ぶりとだけがものをいうのなら、むかしゃ仙台さま殺しゃせぬで、新吉原の傾城高尾けいせいたかおの、大川の船の中での、つるりの伝説は生れはしない。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
軒先には、豊世の意匠と見えて、真綿に包んだ玉がつるしてある。その真綿の間から、青々としたひえの芽が出ている。隅田川はその座敷からも見えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、何かの機会ひょうしに飛びあがったところで、低くつるしてあった洋灯を頭で突きあげた。洋灯はひっくりかえるとともに、石油に引火して四辺あたりが火になった。
前妻の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
静に格子戸を明けるとしんとした奥のから、「どなたじゃ。」という声がして、すぐさまふすまを明けたのは、真白な眉毛まゆげの上まで老眼鏡をつるし上げた主人のあきらであった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
折節おりからいづれも途方とほうれてりましたから、取敢とりあへずこれツて見樣みようふので、父親ちゝおや子供こども兩足りようあしとらへてちうつるし、外面そとかしてひざ脊髓せきずいきました、トコロガ
これから風呂敷を解いて衣服きものを着替え、元のように風呂敷包を仕舞って寝ようと思いましたが、これまで思い付いた宿志しゅくしを遂げないから、目はさかさまにつるし上り、手足はふる
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
庭の松がつるしたる、ほの暗き鐵燈籠かなどうろうの光に檐前のきさきを照らさせて、障子一重の内には振鈴の聲、急がず緩まず、四曼不離の夜毎の行業かうごふに慣れそめてか、まがきの蟲のおどろかん樣も見えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
わが国にかぎらず、どこの国でも昔は非常に惨酷な責道具を用いたのであるが、わが徳川時代になってからは、拷問の種類は笞打むちうち石抱いしだき、海老責えびぜめつるぜめの四種にかぎられていた。
拷問の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雲母マイカか何かで、十六武蔵むさし位の大きさのうすい円盤をつくつて、水晶のいとつるして、真空のうちに置いて、此円盤のめん弧光アーク燈のひかりを直角にあてると、此円盤がひかりされて動く。と云ふのである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いゝーえ、だけど、これからモウかうしてさかなつるのはいや
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
巨大な岩の身体が、天井にさかさつるされてしまったのだ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いずれもつるしんぼうの苦患くげんを今に脱せぬ貌付かおつき
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
沙魚はぜつるや水村山郭酒旗風 嵐雪
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それも縁であろう。越後巫女みこは、水飴みずあめと荒物を売り、軒に草鞋わらじつるして、ここに姥塚うばづかを築くばかり、あとをとどめたのであると聞く。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は赤い牝牛が「引割ひきわり」という方法に掛けられるのを見た。それはのこぎりで腰骨を切開いて、骨と骨の間に横木を入れ、後部うしろの脚に綱を繋いで逆さに滑車でつるし上げるのだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思い出せない——一条の板橋を渡ると、やがて左へ曲る横町にのぼりの如くつるした幾筋いくすじ手拭てぬぐいが見える。紺と黒と柿色かきいろの配合が、全体に色のない場末の町とて殊更ことさら強く人目をく。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
空地に向った右側は魚屋になって、店には鮟鱇あんこうつるし、台板の上には小鯛こだい海老えびかに。入口には蛤仔あさり文蛤はまぐりざるを置いてあった。そこにはのむれるような海岸特有のにおいがあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見につるし上られたまゝしたる體ゆゑ重四郎も流石さすが氣の毒に思ひハヽア僧主は僧主だけ正直な者然し打殺うちころさるゝ迄云ぬと言ふは武士にもました丈夫な精神たましひ天晴々々あつぱれ/\感心した然し彼の掃部めは三五郎が殺したと心得しは鐵扇てつせん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宙につるす。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その返事を聞く手段であったと見えて、私は二晩、土間の上へ、可恐おそろしい高い屋根裏に釣った、駕籠かごの中へ入れてつるされたんです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青い蚊帳かやつるした奥のへやと茶の間の境になった敷居しきいの上に、細君が頭をこちらにして俯伏うつぶしになっている傍に、わかい女が背をこっちへ見せて坐っていたがその手にはコップがあった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つく/″\とれば無残むざんや、かたちのないこゑ言交いひかはしたごとく、かしらたゝみうへはなれ、すそうつばりにもまらずにうへからさかさまつるしてる……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雪なす両のかいなは、よれて一条ひとすじになって、裏欄干うららんかんの梁につるした扱帯の結目むすびめ、ちょうど緋鹿子の端を血に巻いてすがっている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よ/\、おなまぼろしながら、かげ出家しゆつけくちよりつたへられたやうな、さかさまうつばりつるされる、繊弱かよは可哀あはれなものではい。真直まつすぐに、たゞしく、うるはしくつ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
膝股ひざももをかくすものを、腰からつるしたように、乳を包んだだけで。……あとはただ真白まっしろな……冷い……のです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、樹の枝にぶらりぶらりと、女の乳をつるしたように——可厭いやにあだじろく、それ、おつむりそばにも。」
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やッと信仰をつなぎますのも、あの鐘を、鳥のつついた蔓葛つたかずらつるしましたようなもの、鎖もきずなも切れますのは、まのあたりでござります。それまでおこらえなさりまし。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
豆腐も駄菓子もつッくるみに売っている、天井につるした蕃椒とうがらしの方が、よりは真赤まっかに目に立つてッた、しなびた店で、ほだ同然のにしんに、山家片鄙へんぴはおきまりの石斑魚いわな煮浸にびたし
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし残月ざんげつであったんです。何為なぜかというにその日の正午ひる頃、ずっと上流のあやしげなわたしを、綱につかまって、宙へつるされるようにして渡った時は、顔がかっとする晃々きらきらはげし日当ひあたり
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つまたいだ処に、黄昏たそがれから、もう提灯をつるして、すそも濡れそうに、ぐしゃりとしゃがんでいる。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小箱を包んだのを乳の下鳩尾みずおちへ首からつるした、頬へ乱れた捌髪さばきがみが、その白色を蛇のように這ったのが、あるくにつれて、ぬらぬら動くのが蝋燭の灯の揺れるのに映ると思うと
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
キツヽヽといふて奇声きせいはなつた、くだん小坊主こばうずそのまゝ後飛うしろとびにまたちゆうんで、いままで法衣ころもをかけていたえださきながつるさがつたとおもふと、くるりと釣瓶覆つるべがへしうへつて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しずかに糸を取って、無心に繋合つなぎあわせて、あかりを宙につるしたと思うと、はかまの下へ手を入れて、片手で赤本をおさえてみたが、そのまま腰を掛けて、また読みはじめる、岩見重太郎武勇伝。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひげをそのままの頬のしわで、古手拭をかぶった、影法師のような、穴のばあさんとかいう店で、もう霜枯だから花野は幻になった、水より日向ひなたがたよりらしい、軒につるした坊さんばな
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪をつかんでつるし下げた女の顔の形をした、ぶらり火というのが、今も小雨の降る夜が更けると、樹のまたかかるというから、縁起を祝う夜商人よあきんどは忌みはばかって、ここへ露店を出しても
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一渡ひとわたり店の売物に目を配ると、真中まんなかつるした古いブリキの笠の洋燈ランプは暗いが、駄菓子にもあめにも、鼠は着かなかった、がたりという音もなし、納戸の暗がりは細流のような蚊の声で
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついて右へ廻るといきな格子戸の内に御神燈をつるしたのがあるが、あらず、左へ向うと、いきなり縁側になって、奥の石垣が見透みとおされる板屋根の小家こいえがある、そこが引越先であった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間にんげんにはえぬ……城山しろやま天守てんしゆうへに、をんなうつばりからつるしてく、とをとこへ!』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左様そうです。つな、るな、貴下あなたひどいことをするぢやあありませんか。三日もめしを喰はさないで眼もくらむでゐるものを、赤條々はだかにして木の枝へつるし上げてな、銃の台尻だいじりで以てなぐるです。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
木戸には桜の造花つくりばなひさしにさして、枝々に、赤きと、白きと、数あまた小提灯こぢょうちんに、「て。」「り。」「は。」と一つひとつ染め抜きたるを、おびただしくつるして懸け、夕暮には皆ひともすなりけり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天井からつるした氷嚢ひょうのう取除とりのけて、空気枕に仰向けに寝た、素顔は舞台のそれよりも美しく、蒲団ふとん掻巻かいまき真白まっしろな布をもっておおえる中に、目のふちのややあおざめながら、額にかかる髪のつや
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
件の小坊主はそのまま後飛うしろとびにまた宙を飛んで、今まで法衣ころもをかけておいた、枝のさきへ長い手でつるさがったと思うと、くるりと釣瓶覆つるべがえしに上へ乗って、それなりさらさらと木登きのぼりをしたのは
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元結もとゆいは切れたから、髪のずるりとけたのが、手のこうまつはると、宙につるされるやうになつて、お辻は半身はんしん、胸もあらはに、引起ひきおこされたが、両手を畳に裏返して、呼吸いきのあるものとは見えない。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つな、るな、貴下あなたひどいことをするじゃあありませんか。三日も飯を喰わさないで眼もくらんでいるものを、赤条々はだかにして木の枝へつるし上げてな、銃の台尻でもってなぐるです。ま、どうでしょう。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さき二人ふたりあたまながいのと、なにかに黒髮くろかみむすんだのは、芝居しばゐ樂屋がくや鬘臺かつらうけに、まげをのせて、さかさつるした風情ふぜいで、前後あとさきになぞへにならんで、むかうむきにつて、同伴者つれの、うして立淀たちよどんだのをつらしい。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)