おん)” の例文
おんくに当たって、いわば恩の部類について一言したい。四おんなるものはなにかとか、あるいは中には五おんおんと数える人もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「おばさん、ありがとう、おばさん、ごおんわすれませんよ。わたしのちからでできることなら、おばさんになんでもいたします……。」
ある冬の晩のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、長老の快川国師かいせんこくしは、故信玄こしんげんおんにかんじて、断乎だんことして、織田おだの要求をつっぱねたうえに、ひそかに三人をがしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お役を勤めて、ごおんを報じるなどは、栄達を求める微禄びろくはいに任せておけばよろしいのだと思うが、ご貴殿のお考えは、どうありましょう
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そうだろう、それはわたしもわかっている。あの人は親切であった。まったくおまえには親切であった。そのおんわすれてはならないぞ」
おんあるひと二年目にねんめせていまあるじ内儀樣かみさま息子むすこ半次はんじはぬもののみなれど、此處こゝ死場しにばさだめたるなればいやとてさら何方いづかたくべき
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、このおんをわすれない動物たちは、キビのつぶをせっせとひろいあつめては、ふくろのなかにつめてくれたのでした。
流して打歡うちよろこび是迄種々いろ/\と厚く御世話にあづかりし上只今の其御言葉ことば此御おんいのちかへてもはうがたし實は御さつしの通りわづか路銀ろぎんつかつくし此程はくしかんざしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
友造ともざう袖崎そでさきうちおんがあるとつたのもほかではない、けんきこえた蒔繪師まきゑしだつた、かれちゝとしつかへて、友造ともざう一廉ひとかどうで出來でき職人しよくにんであつたので。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしわたしは、ことばでおれいを言うよりも、おこないでお礼をしたいほうなのです。それで、オヤユビさん、いまそのごおんがえしができると思います。
鋳金はたとい蝋型ろうがたにせよ純粋美術とは云い難いが、また校長には把掖はえき誘導ゆうどう啓発けいはつ抜擢ばってき、あらゆるおんを受けているので、実はイヤだナアと思ったけれどもげて従った。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夫婦ふうふこゝろ正直しやうぢきにしておやにも孝心かうしんなる者ゆゑ、人これをあはれみまづしばらくが家にるべしなどすゝむ富農ふのうもありけるが、われ/\は奴僕ぬぼくわざをなしてもおんむくゆべきが
頭が臓腑を食ったなら、ついには頭の最後ではあるまい乎。田舎はもとより都会のおんる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「私や子供のために、こんなにせながらはたらかなければならないのだなんて、おんにばつかりせてゐるのよ。」と仰言つたあなたの美しい寂しい笑顏ゑがほを、私は今思ひうかべてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
申子しんし(一二五)卑卑ひひ(一二六)これ名實めいじつほどこす。韓子かんし(一二七)繩墨じようぼくいて事情じじやうせつに、是非ぜひあきらかにす、きはめて(一二八)慘礉さんかくにしておんすくなし。みな道徳だうとくもとづく。
成程それじゃア止められねえが、まア名残いおしいってね、わけもんば皆おんになってるだから心配しんぺえぶっております、留守中は役にア立たないがおけえりまでアたしかに荷物はみんな蔵へ入れて置きましたが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其のおんかんぜしにや以後又蛇をざりき、蛇は「山かがし」となすなほすすむこと凡そ一里にして三長沢と利根本流とのひに出づ、時猶十時なりしももちあぶりて昼食ちうしよくし、議論大に衆中に
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
何等の目的も無く生むで置きながら、せがれがやくざだと大概たいがい仲違なかたがひだ!其處が人間のえらい點かも知れんが、俺は寧ろ犬ツころの淡泊たんぱくな方を取るな。彼奴きやつ子供を育てたからつて決しておんを賣りはしない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたしは、いまでも、そのひとたちをなつかしく、したわしくおもっているばかりでなく、ごおんけたことを、けっしてわすれはしない。
森の中の犬ころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
見るは此御白洲がはじめてなり一言も有のないのと言るゝは如何なる事やと空嘯そらうそぶいてたりしかば無量庵は然樣で有う人間にんげんうまれておんを知らぬを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかしここに奇態きたいに思うことは、古い言葉にはあるいはあって、僕の無学むがくのために知らぬのかははかられぬが、おんという字に和訓わくんのないことである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
らへて郡長ぐんちやうせがれづらが些少いさゝかおんはなにかけての無理難題むりなんだいやりかへしてりたけれど女子をなご左樣さうもならずやなぎにうけるを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あなたのことは、けっしてわすれません。かならず、たすけていただいたごおんがえしはいたします。」
きさまらがおれに対してちっとでもなさけやおんを知っているなら、だまっていろ。さあ、やれ、リカルド
夫婦ふうふこゝろ正直しやうぢきにしておやにも孝心かうしんなる者ゆゑ、人これをあはれみまづしばらくが家にるべしなどすゝむ富農ふのうもありけるが、われ/\は奴僕ぬぼくわざをなしてもおんむくゆべきが
……また前様めえさまとてもなにもこれ、わかひとうらみおんむくひもあらつしやる次第しだいでねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「バカ! こんなほそい木連格子きつれごうしぐらい、破ろうと思えば破れるが、それでは、ごおんになった菊村きくむらさまにすまないから、おゆるしのあるまで、ジッとしんぼうしてはいっているのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人にいて出ても、中途から気が変って道草をったりしては、水臭みずくさいやつだと主人におこられた。雄犬のくせでもあるが、よく家をあけた。せんぬし、先々の主、其外一飯いっぱんおんあるうちをも必たずねた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おとこは、どうかして、もう一めぐりあいたいものだとおもいました。しんせつにしてもらったおんわすれなかったのであります。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
西洋人はともすると、東洋人はおんを知らないという。また我々とても相互そうごに、彼奴きゃつは恩を知らぬやつだといって悪口あっこうする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
其方儀先代せんだい嘉川平助におんも有之り候由にて藤五郎藤三郎建部たてべ郷右衞門ばんすけ十郎右四人かくまひ候だん深切しんせつ致方いたしかたに候得共えども身分不相應さうおうなる儀につき以後法外之なき樣心掛べし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はゝ安兵衛やすべゑ同胞けうだいなれば此處こゝ引取ひきとられて、これも二ねんのちはやりかぜにはかにおもりてせたれば、のち安兵衞やすべゑ夫婦ふうふおやとして、十八の今日けふまでおんはいふにおよばず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さては去年の病鶴びやうかくおんむくはんため異国ゐこくよりくはえきたりしならん、何にもあれいとめづらしき稲なりとて領主りやうしゆたてまつりけるに、しばらくとゞめおかれしのちそのまゝあるじにたまはり
「なにっ、それがおまえのおんがえしか。さっさとかんおけのなかにもどりゃあがれ。」
しかしなに御不足ごふそくでも医学博士いがくはかせ三角康正みすみかうせいさんが、この一かうにおくははりくだすつて、篤志とくしとまでもおんせず、すくな徳本とくごう膝栗毛漫遊ひざくりげまんいうおもむきで、村々むら/\御診察ごしんさつをなすつたのは、御地おんちつて
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「かれが聞きましたなら、さだめし、ごおん感泣かんきゅういたしましょう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちらが、あれほど、どくに、おもったのに、そのおんあだかえすとは、あきれた人間にんげんだと、こころなかで、いきどおられたのでした。
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さては去年の病鶴びやうかくおんむくはんため異国ゐこくよりくはえきたりしならん、何にもあれいとめづらしき稲なりとて領主りやうしゆたてまつりけるに、しばらくとゞめおかれしのちそのまゝあるじにたまはり
世話せわにこそなれおんもなにもなきが、つねごろ種々さま/″\苦勞くろうをかけるうへにこの間中あひだぢうよりの病氣びやうき、それほどのことでもかりしを、何故なにゆゑうさぎて、こゝろにも所置しよちありしかもしれず
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あなたのことは、けっしてわすれません。きっと、ごおんがえしをいたします。」
トさういつてかさね/″\おんしやしてわかれて何処どこへかつちまひましたツて。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
正吉しょうきちあしがよくなったのを、わがことより、よろこんでくれるははて、しんにそのおんを、わすれてはならぬとおもいました。
空にわく金色の雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たみうへもなきゑんよろこびておまへさまもいまはなのさかりりがたにつてはんで歩行あるくともれることでなし、大底たいていにおこヽろさだたまへ、松島まつしまさまにおんはありともなんのお束約やくそくがありしでもなく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……で、恩人おんじんふ、おんじやうじ、なさけ附入つけいるやうな、いやしい、あさましい、卑劣ひれつな、下司げすな、無禮ぶれいおもひが、うしてもこゝろはなれないものですから、ひとり、みづかはゞかられたのでありました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
○ つるおんむく
それは、一ときだって、あなたのごおんわすれはいたしません。けれどわたしたちだって、ただおどったり、わらったり、ねたりしているのではありません。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あねなるひと全盛ぜんせい餘波なごりいては遣手新造やりてしんぞあねへの世辭せじにも、いちやん人形にんげうをおひなされ、これはほんの手鞠代てまりだいと、れるにおんせねばもらありがたくもおぼえず、まくはまくは
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
○ つるおんむく
からすは、少年しょうねんおんふかかんじました。そのふゆ無事ぶじぎて、あくるとしになりますと、ある少年しょうねんにわでからすがしきりにくのをきました。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしも一しよかんれよとてきわけもなくりし姿すがたのあくまであどけなきが不愍ふびんにて、もとよりれたのまねば義務ぎむといふすぢもなく、おんをきせての野心やしんもなけれどれより以來いらい百事萬端ひやくじばんたん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)