𤏋ぱっ)” の例文
もの優しく肩が動くと、その蝋の火が、件の絵襖の穴をのぞく……その火が、洋燈ランプしんの中へ、𤏋ぱっと入って、一つになったようだった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と二人で見ているうち、夕日のなごりが、出崎のはなから𤏋ぱっと雲を射たが、親仁の額もかっとなれば、線路もさっと赤く染まる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むくむくと持上って、𤏋ぱっと消えて、下の根太板ねだいたが、凸凹でこぼこになったと思うと、きゃッという声がして、がらがらごう、ぐわッと、早や、耳がつぶれて、よついの例の一件。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というがはやいか、ケンドンにほうり出した、巻煙草の火は、ツツツと楕円形だえんけいに長く中空なかぞらに流星の如き尾を引いたが、𤏋ぱっと火花が散って、あおくして黒き水の上へ乱れて落ちた。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そがなすままにまかしおけば、奇異なる幻影眼前めさきにちらつき、𤏋ぱっと火花の散るごとく、良人のはだを犯すごとに、太く絶え、細く続き、長くかすけき呻吟声うめきごえの、お貞の耳を貫くにぞ
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐにひょろひょろと室へ入って、扉を音もなくひとりでに閉めるとね、トタンに𤏋ぱっいて来たと思った電燈が、すぐに忘れものを思い出して引返したように消えたでしょう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚いて法師が、笠に手を掛け、振返ると、亀甲形きっこうがたに空をくぎった都会みやこを装う、よろいのごとき屋根を貫いて、檜物町の空に𤏋ぱっと立つ、偉大なる彗星ほうきぼしのごとき火の柱が上って、さかしまほとばしる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わし卓子テイブルの向いに、椅子を勧められて真四角まっしかくに掛けたのじゃが、硝子がらす窓から筑波山の夕日がして、その生理学教室を𤏋ぱっと輝かした中に、国手のわかい姿が、神々しいまでに見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのときは船から陸へ渡した板が真直まっすぐになる。これを渡って、今朝はほとんどど満潮だったから、与吉は柳の中で𤏋ぱっあさひがさす、黄金こがねのような光線に、その罪のない顔を照らされて仕事に出た。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「婆さん、もう一燻ひとくべ𤏋ぱっとやりゃどうだ。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)