鷹匠たかじょう)” の例文
鷹匠たかじょうが鷹を据えて通るのも、やがて冬の近づくのを思わせた。町へ出ると、草鞋わらじを吊るした木戸番小屋で鰯を買っているのが見えた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
餌取とは言うまでもなく、主鷹司たかづかさに属して鷹や犬に喰わせる餌を取るを職とした雑戸で、なお徳川時代の鷹匠たかじょうに属する餌差えさしに相当するものである。
みずからある判断をくだし、みずからその実行を命じないうちは心を安んじないと云う風である。治修はある時二人の鷹匠たかじょうにそれぞれみずから賞罰しょうばつを与えた。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生気溌剌はつらつたるもので、学生たちは下宿で徹宵てっしょう、新兵器の発明にいて議論をして、それもいま思うとき出したくなるような、たとえば旧藩時代の鷹匠たかじょうに鷹の訓練をさせ
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
西村某と云ふ鷹匠たかじょうあり。たかを捕らんとて知頭ちず蘆沢山あしさわやまの奥に入り、小屋を掛けて一人住みけり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
法令は、年ごとに、に入りさいに入って、小やかましい箇条を加え、鷹匠たかじょう、鳥見組の同心は、ことごとく御犬奉行や犬目付へ転職になり、市中には、犬医者のかんばんが急にふえた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫人 しかし、そうは云うものの、白鷹を据えた、鷹匠たかじょうだと申すよ。——縁だねえ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶴見はこうして、東京麹町こうじまち隼町はやぶさちょうで生れたことになっている。府内は大小区に分けられていたかと思うが麹町隼町に変りはない。幕府でお鷹匠たかじょうを住まわせて置いた町だといわれている。
さて、右の四五人連れの神楽師の旅装を見ると、笠をかぶり、脚絆きゃはん甲掛こうがけに両がけの荷物、ちょっとお鷹匠たかじょうといったようないでたちですけれども、脇差を一本しか差してはおりません。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親王がた、高官たちもたか使いのたしなみのある人は、野に出てからの用にきれいな狩衣かりぎぬを用意していた。左右の近衛このえ、左右の衛門えもん、左右の兵衛ひょうえに属した鷹匠たかじょうたちは大柄な、目だつ摺衣すりぎぬを着ていた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いや、不思議といへばそれだけではない。よく見ると、西洋の鷹匠たかじょうのかぶるやうな黒い帽子で半ばかくされてゐるそのひたいが、思ひなしか妙にあおざめて深い憂愁をたたへてゐるやうにさへ見えるのである。
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
時節柄で亀戸かめいどの藤の噂が出た。藤の花から藤娘の話をよび出して、それから大津絵の話に転じて、更に鷹匠たかじょうのはなしに移る。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もとは南部男爵だんしゃく家の鷹匠たかじょうなり。町の人綽名あだなして鳥御前とりごぜんという。早池峯、六角牛の木や石や、すべてその形状と在処ありどころとを知れり。年取りてのち茸採きのことりにとて一人のつれとともに出でたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「公儀お鷹匠たかじょうのような奴が通らあ、いやにギスギスしてやがらあ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
駒込富士前ちょうの裏手、俗に富士裏というあたりから、鷹匠たかじょう屋敷の附近にかけて、一種の怪しい噂が立った。
鷹匠たかじょうに捕られてきょう七日
鷹匠たかじょう屋敷から吉祥寺の裏手まで戻って来たが、聞えるものは草むらに鳴き弱っている虫の声と、そこらの森のこずえに啼くふくろうの声ばかりで、それらしい声は耳に入らなかった。