つぐみ)” の例文
鳥の中でも、かささぎとか、かけすとか、つぐみとか、まちょうとか、腕に覚えのある猟師なら相手にしない鳥がある。わたしは腕に覚えがある。
話にきっかけをつけるのではない。ごめん遊ばせと、年増の女中が、ここへ朱塗の吸物膳に、胡桃くるみと、つぐみ蒲鉾かまぼこのつまみもので。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日の入り方に一羽のつぐみが樹の孔の上に垂れているほそ枝に来て、いさましい軽い歌をうたった。やがて暗黒が来て月がのぼり、星は露のすきまにきらめいた。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
水島生みずしませいが来た。社会主義しゃかいしゅぎ神髄しんずいを返えし、大英遊記だいえいゆうきを借りて往った。林の中でひろったと云って、弾痕だんこんあるつぐみを一持て来た。食う気になれぬので、楓の下に埋葬まいそう
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あたりを占めるものは、すべての密林に於るが如く、完全な沈黙で、それを破るものは只蝉の声と、つぐみ(?)の低い、笛に似た呼び声とだけ。図62は欄干の石の一つを示す。
朝おきて戸を開けると、葉の黄ばんだむかふの林に鳥の群が来て囀づりかはしてゐたり、またとほくの方でつぐみこゑきこえたりした。くい/\と啼く鶇の啼声が、殊にも彼に故郷を思ひ出させた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
前をめぐ渓河たにがわの水は、淙々そうそうとして遠く流れ行く。かなたの森に鳴くはつぐみか。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
石斛せっこくの花が咲いている。えんじゅの花が咲いている。そうして厚朴ほおの花が咲いている。鹿が断崖の頂きを駆け、たかが松林で啼いている。もずが木の枝で叫んでいるかと思うと、つぐみが藪でさえずっている。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つむりまろきはだかつぐみをつぶさに見れば腹はかれて小さな足が二つ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もちに著いたつぐみのように、並べて吊るされるのだ。
「なあに、かえって都合がいいんです、口笛を吹くのにね」——彼は少しぜえぜえ声でこう答える——「そのへんのつぐみなんかにゃびくともしませんや」
渡鳥わたりどり小雀こがら山雀やまがら四十雀しじふから五十雀ごじふから目白めじろきくいたゞき、あとりをおほみゝにす。椋鳥むくどりすくなし。つぐみもつとおほし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
粕漬かすづけつぐみ幾匹平圧ひらおしに圧して入れつかこの堅き蓋は
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
公園の同じ並木道、鳩とつぐみが親しげに入りみだれている、その中に、二人の婦人が隣り合って腰をおろしていた。お互いにらない同士であった。が、二人とも、一人の子供を連れていた。