鬼瓦おにがわら)” の例文
折しも秋の末なれば、屋根にひたる芽生めばえかえで、時を得顔えがおに色付きたる、そのひまより、鬼瓦おにがわらの傾きて見ゆるなんぞ、戸隠とがくやま故事ふることも思はれ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
この門をよく見直すと、左右に門番があって、屋根は銅葺どうぶき破風造はふづくり、鬼瓦おにがわらの代りに撞木しゅもくのようなものが置いてあります。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで渡瀬はおかしくなってきて、片眼をかがやかして鬼瓦おにがわらのような顔をして笑った。笑う時にはなお鬼瓦に似てくるのを渡瀬はよく知っていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……われら覚えました狂言の中に、鬼瓦おにがわらと申すがあっての、至極初心なものなれども、これがなかなかの習事ならいごとじゃ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉原神社の祭礼のばか踊りに鬼瓦おにがわらのような面をした愛嬌のある物腰のそんな泥坊が出てきたことがあったが、それがはじめさんによく似ていたのである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
鬼瓦おにがわらのような顔が、彼の姿をちょっと滑稽に見せていた。又七もおろくも別に止めようとはしなかった。それどころか、却って内心ほっとしているらしかった。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その次には鬼瓦おにがわらぐらいな大硯おおすずりを担ぎ込んだ。これは端渓たんけいです、端渓ですと二へんも三遍も端渓がるから、面白半分に端渓た何だいと聞いたら、すぐ講釈を始め出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
怪異なる鬼瓦おにがわらを起点として奔流の如く傾斜する寺院の瓦屋根はこれを下から打仰うちあおぐ時も、あるいはこれを上から見下みおろす時も共に言うべからざる爽快の感をもよおさせる。
何事もなかったように、ちょいちょいお高を見て、その鬼瓦おにがわらのような顔をしきりにほほえませていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
別れる時には窓から鞄を出してやってそれっりになるものだが、里の鬼瓦おにがわらの相棒と素性が知れて見ると、お父さんはこの老人に特別の敬意を表さなければならなかった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二十人いたものが、一人ぬかされ二人ぬかされして、しまいには、一番強いので、「鬼瓦おにがわら」とみんなからあだなされている子供と、見馴れない子供との、二人っきりになりました。
天狗笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
突然大名が寺の屋根の鬼瓦おにがわらを見て泣きだしてしまうので、太郎冠者がその次第をたずねますと、あの鬼瓦はいかにも自分の女房に良く似ているので、見れば見るほど悲しい、と言って、ただ
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「宇乃は知らないのか」宇乃は甲斐を見た、甲斐はその眼を見返しながら云った、「木はものを云うさ、木でも、石でも、こういう柱だの壁だの、屋根の鬼瓦おにがわらだの、みんな古くなるとものを云う」
「どこの娘? どこの娘だっていいじゃないか。知りあいの家の娘さんさ。大きにお世話だよ。お前こそ、どこの人だい。江戸じゃアあんまり見かけない鬼瓦おにがわらだねえ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鬼瓦おにがわら」はほんとに鬼瓦のような顔つきをしてみせましたが、見馴みなれない子供はびくともしませんでした。そしてるうちに、ふいに見馴れない子供の鼻がぴくぴく動き出しました。
天狗笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「妙に女婿や養子の多いところですよ。あすこに鬼瓦おにがわらのような怪物がいるでしょう」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これは相手が名にし負う西川の鬼瓦おにがわらだったから、余程考えたに相違ない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
厳格な人として近所へも鳴り響いている証拠に、「鬼瓦おにがわら」だの「雁首がんくび」だのというコチ/\した綽名あだながついている。寛一君は当然この伯父さんが煙ったい。伯母さんの方は母の姉だから肉親である。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)