面持おもも)” の例文
が、その間も勿論もちろんあの小娘が、あたかも卑俗な現実を人間にしたような面持おももちで、私の前に坐っている事を絶えず意識せずにはいられなかった。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
板垣修理之助をはじめ、座中の老巧な智将たちも、今さらのように、十七歳の弁次郎幸村に、啓発けいはつされた面持おももちであった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてその六畳から出て来た愛子は、さすがに不安な面持おももちをしていた。苦しくってたまらないというからひたいに手をあてて見たら火のように熱いというのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一行は途方とほうにくれた面持おももちをしていると、親切な老院長が、一晩泊っておいでなさいとすすめてくれた。そして、粗末そまつながらも、夜食をふるまってくれたのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つまは三つになる次男じなんを、さもかわいらしそうにむねきよせ子どものもじゃもじゃしたかみに、白くふっくらした髪をひつけてなんのもない面持おももちに眠っている。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのままお下渡さげわたしになったのを、ただいま洗おうとしたら、まあどうでしょう、ちゃりんと小判が、と息せき切って語るのだが、主客ともに、けげんの面持おももちで、やっぱり
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大作は意外な面持おもも
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宗易は、自分の答えを「よしなき事をしてける——」と、多少悔いないでもない面持おももちであったが、もう仕方がなかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三右衛門はちょっと云いよどんだ。もっとも云おうか云うまいかとためらっている気色けしきとは見えない。一応いちおう云うことの順序か何か考えているらしい面持おももちである。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なぜそんなに泣くかといってみても、もとより答えられる次第のものではない。もっともおはまは、出立という前の夜に、省作の居間にはいってきて、一心こめた面持おももちに
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
田口はけげんな面持おももちである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
上人は、いつも講義をする道場のだんにおごそかに坐り、月輪殿は、そのわきへ、さらに厳粛な面持おももちをして、坐っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三頭目のへい牛を化製所の人夫に渡してしまってから、妻は不安にたえない面持おももちで
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ついにむなしく探しあぐねて帰って来たことなどを——藪八は、いかにも、疲れはてた面持おももちで、つぶさに話した。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱実は、青ざめた面持おももちをして、そういう小次郎の平気な笑い顔を、憎むかのように白い眼で見つめた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「縫が……」と、さすがに、越前守も、胸のいた面持おももちを見せた——「縫が、そのように、重体ですか」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(からまれては、うるさい……)性善坊は、そう考えたので、面持おももちを直して
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意外な面持おももちをしたのは、城太郎に立ち向っているその家臣だけでなかった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、近頃、何か、感じていることがあるらしい面持おももちである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、誰もせない面持おももちであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)