にわとり)” の例文
或る大きな活動写真の撮影場セットに行って見ると、九官鳥、鸚鵡おうむ、インコ、紅雀、カナリヤ、にわとりなぞが籠に入れて備え付けてある。
この点はいぬの声にわとりの声を、異人種がどう聴くかということと比較して見ても解ることで、土地と時代には定まった一つの耳の働きがあるから
椰子の葉の粗い編目の間から、一羽の牝雞めんどりが首を出してククーと鳴いた。此のにわとりを届けるように頼まれたのだという。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
にわとりの歩いている村の道を、二、三人物食いながら来かかる子供を見て、わたくしは土地の名と海の遠さとを尋ねた。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうして、無言のままに再びそこを出て、家に飼ってある雞籠とりかごのまわりをめぐってゆくかと思うと、籠のうちのにわとりが俄かに物におどろいたように消魂けたたましく叫んだ。
権四郎爺はにわとりの話を持出した。先ず森山の機嫌を取って置く必要があったからだ。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
にわとりが鳴いて女は帰って往った。帰る時ぬいのあるくつを一つくれて言った。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
竹藪の向うの農家からときどき長閑のどかにわとりの声が聞える。
梅が香やにわとり寝たる地のくぼみ 如行じょこう
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「おふじ、にわとりはたっしゃかい?」
鋳物工場 (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
わかれせはしきにわとりの下 士芳とほう
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
東の空の白むとき何故なぜにわとり
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
コロコロは本来狗をぶ言葉で、多分は「来よ」という語の改造であった。関東地方を始めとして、今でもにわとりを喚ぶのにコロコロという処は多い。
初夏の日かげは真直まっすぐに門内なる栗やおうちこずえに照渡っているので、垣外の路に横たわる若葉の影もまだ短く縮んでいて、にわとりの声のみ勇ましくあちこちに聞える真昼時。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
製作品に就いても折々不審なことが現れるようになった。板に彫らせた太陽模様図カヨスにわとりの絵が大分手を省いてある。小神祠ウロガンの模型も、其の構造が少々実物と違うらしい。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
にわとりが勇ましく歌っても、雀がやかましくさえずっても、上州の空は容易に夢から醒めそうもない。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それ故にこそ卵とにわとりとの昔話、ないしはナルシッソスの神話にも比ぶべきこんな謎の歌を、いつの頃からともなく春来るごとに、野に出でて唱えていたのである。
始めて引越して来たころには、近処の崖下がけしたには、茅葺かやぶき屋根の家が残っていて、昼中ひるなかにわとりが鳴いていたほどであったから、鐘のも今日よりは、もっと度々聞えていたはずである。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母は勝手元に火焚ひた水汲みずくみまたは片付け物に屈托くったくをしている間、省みられざる者は土間の猫にわとり、それから窓に立ち軒の柱にもたれて、雲や丘の樹の取留とりとめもない景色を
台所前の井戸端いどばたに、ささやかな養雞所ようけいじょが出来て毎日学校から帰るとにわとりをやる事をば、非常に面白く思って居た処から、其の上にもと、無理な駄々だだこねる必要もなかったのである。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
実は花の形が横から見たにわとりに似ているのでそういったのである。