陰険いんけん)” の例文
それにもかかわらず、平田一郎という陰険いんけんな男は、一体どこから見ているのか、実にくわしく、実に正確に、夫婦間の秘事ひじを手紙の上に暴露ばくろしてある。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてただ一言いのちをくれぬかという光秀のつきつめている心の底をうかがうと、光春には、その無情も、その陰険いんけんな仕打も、恨む気にはなれなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、何かしら——実際私には何かわからなかったのだが——唾棄だきすべき下等な目的をもってここへ来たのに相違ない。私はその陰険いんけん執拗しつようとに感嘆に近い憎悪を燃やした。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それらの品が六郎氏の陰険いんけんな悪戯を証拠立てているというばかりではなく、一歩譲って、春泥が六郎氏にうたがいをかける為に、その品々を偽造し六郎氏の本棚へ入れて置いたと考えることさえ
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
続いて、聞えてきたのは、太い調子のひそひそ声で、なにか陰険いんけんな悪口か、猥褻わいせつな批判らしく、無遠慮にひびいてくる高らかな皆の笑い声と共に、ぼくはまた、すっかり悄気しょげてしまったのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
嫉妬しっと貪慾どんよく猜疑さいぎ陰険いんけん、飢餓、憎悪ぞうおなど、あらゆる不吉の虫がい出し、空をおおってぶんぶん飛びまわり、それ以来、人間は永遠に不幸にもだえなければならなくなったが、しかし、その匣のすみ
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
勝見が独りでいるところを横から見ていますと、何かにかれているようなんですよ。話をして見ても、言語のはっきりしている割合に、どことなく陰険いんけんなんです。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すでに今朝から陰険いんけんそうをあらわしていた空は、この時になって、いっそうわるい気流となり、雷鳴らいめいとともに密雲のそうはだんだんとあつくなって、呼吸いきづまるような水粒すいりゅう疾風しっぷうが、たえず
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
×国は三十年も前から仮想敵国かそうてきこくとして我国をにらんでいるのです。あらゆる術策じゅつさくが我国にほどこされてある中に、最も陰険いんけんきわまるのはこの国際殺人団の本体であるところのJPC秘密結社です。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)