阿片アヘン)” の例文
ナポレオン一世がどうの、イギリスの阿片アヘン政策がどうの、パークスがどうのと、しばしば、露八には相槌あいづちの打てない話題にも話がとぶ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから兵隊になって、やはりそこでも、生きる最後の手段として阿片アヘンを用いました。姉さんには僕のこんな気持、わからねえだろうな。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
翡翠ひすい、水晶、その他の宝玉の類、緞子どんす繻珍しゅちん羅紗ラシャなぞいう呉服物、その他禁制品の阿片アヘンなぞいうものを、密かに売買いするのであったが
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まるで阿片アヘン中毒者のように、それがどんな結果をもたらそうと、知ったことではなかったのだ。ただ、それに溺れ切れれば幸福であったのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
第一に煙毒というて、かの阿片アヘンの中毒だ。これはなかなかひどい。第二には経毒というて、即ち経書の毒、いわゆる口に孔孟こうもうを説いて身に桀紂けっちゅうを行うというのだ。
デ・クインシイが「阿片アヘン喫煙者の懺悔ざんげ」は、さきに佐藤春夫さとうはるを氏をして「指紋しもん」の奇文を成さしめたり。
そして、今度は他人ではなくて自分自身を殺す様な事柄に、あの阿片アヘンの喫煙に耽り始めたのです。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ほんとに夢のような小さい室! その室を仄かにかおらせるものは、甘い阿片アヘンの匂いである。室を朦朧と照らしているのは、薄紫の燈火である。それは天井から来るらしい。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あれは満州の阿片アヘンでしこたまもうけた。軍を使って、阿片の密培地をおさえさせて、砂馬はそれで私腹をやしておきながら、しかも軍から信用されている。あいつはずるいやつだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
信一郎は、うつとりとした心持で、阿片アヘン吸入者が、毒と知りながら、その恍惚たる感覚に、身体を委せるやうに、夫人の蜜のやうに甘い呼吸と、音楽のやうに美しい言葉とに全身を浸してゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
だからあんたから阿片アヘンでももらって、やけに呑んで見ようと思って。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
阿片アヘンと水
つまり私を入れた都合六人の上級船員が、一番先に食事をするのであったが、阿片アヘンを積む船だけに相当美味うまい物が喰えた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
でも、ね、一ついやな事があるの。そのお方の話では、直治はかなりひどい阿片アヘン中毒になっているらしい、と……
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
よく阿片アヘン中毒者——イヤそんな例をとらなくてもいい、煙草のみでも酒のみでも——などが始めの中はこんなものが、と思ってそれを続けて行く中には何時しかそれが恍惚の夢を齎すのだ
息を止める男 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
阿片アヘン郷として知られている東寧とうねい穆林ぼくりんのあたりへはいりこんだのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
信一郎は、うっとりとした心持で、阿片アヘン吸入者が、毒と知りながら、その恍惚こうこつたる感覚に、身体をまかせるように、夫人のみつのように甘い呼吸と、音楽のように美しい言葉とに全身を浸していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「張さんの知り合いの阿片アヘン窟へ行って見ましょう」とS記者が云う。
赤げっと 支那あちこち (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先ずアンナ風に何も知らない人間を、昨夜ゆんべみたいに麻酔さしておいて、スコポラミンと阿片アヘンの合剤を注射して、一層深い、奇妙な、変ダラケの昏睡におとしいれる。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そう。阿片アヘンのほうは、よしたのかしら。あなたは、ごはんをすませなさい。それから今夜は、三人でこの部屋におやすみ。直治のお蒲団ふとんを、まんなかにして」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
阿片アヘンの密培地へもぐりこんだのか?」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
阿片アヘンと、消化剤と、強心剤と、催眠薬と、媚薬と、貞操消毒剤と、毒薬の使い方を教えて、そんなもののゴチャゴチャが生み出す不自然の倒錯美をホントウの人類文化と思い込ませた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)