閨房けいぼう)” の例文
それはまさしく閨房けいぼうであった。ぎぬで幾部屋かに仕切ってあった。どの部屋にも裸体像があった。いずれも男女の像であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
孔子は女子と小人とは養い難しといっているが、ひそかに思うに、孔子は閨房けいぼうに於て、あるいはその夫人に大いに苦しめられたものではあるまいか。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
昔は、一間の中にみすを垂れて、その中が女の居間であり、閨房けいぼうであった。さし向いになって見ると、年は二十ばかりで、愛嬌あいきょうがあり美しい女である。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女子を閨房けいぼうと台所とに幽閉することなく、これに職業を与える事は我国においても早くから実行されていますが
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
何も閨房けいぼうの語らいばかりが夫婦を成り立たせているのではない。一夜妻ならば要は過去に多くの女を知っている。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼と寸分違わぬ男が、閨房けいぼうの遊戯を、彼の親しい友達に、すっかり見られてしまったのだ。彼と寸分違わぬ男がだ。品川が赤くなったのも無理ではない。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが今では、隠居いんきょして家督を、伜繁助に譲り、末娘が将軍の閨房けいぼうの一隅にちょうを得、世ばなれた身ながら、隠然いんぜんとして権力を、江都に張っていたのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
蘭童らんどうあるが故に、一女優のひとすじの愛あらわれ、菊池寛の海容かいようの人情讃えられ、または蘭童かかりつけの××の閨房けいぼうに御夫人感謝のつつましき白い花咲いた。
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
中年過ぎからはもつぱら江戸中から美しい素人娘をあさり、それを金の力で強引にめかけにして、一人々々閨房けいぼうの惡戯で殺して行つたといふ、恐ろしい噂が立つてゐたのです。
が、問題が問題だけに、ことは上流の閨房けいぼうに関連してともすれば風紀紊乱びんらんの恐れがあり、これが取り扱いには当局も手を焼けば、妙齢の子女を持つ親たちも当惑し切っている。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
第一は舞踏場へ出るものものしい服装をした花の姿を現わし、第二はゆったりとした趣のある午後服の姿を現わし、第三は閨房けいぼうにある美しい平常着の姿を現わすともいわれよう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
……といって閨房けいぼうあかりらしい艶媚なまめかしさも、ほのめいていない……夢のように淡い、処女のように人なつかしげな、桃色のマン丸い光明こうみょうが、巨大おおきな山脈の一端はならしい黒い山影の中腹に
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
船王は閨房けいぼう修まらず、池田王は孝養にけるところがあり、塩飽王は上皇がその無礼を憎まれており、ただ、大炊王だけは若年じゃくねんながら過失をきいたことがないから、と、押勝の筋書通り
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして、閨房けいぼうの秘事までうちあけたうえ、誰にもないしょだよ、と念を押す。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
云って見れば閨房けいぼうなので。同時に拷問室でもあれば、ギヤマン室までありますので。田沼侯お気に入りの平賀源内氏が、奇才を働かせて作った室の由で。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういう老婦人は子供を多く生まないようにという口実の下に、しばしば若夫婦と室を同じくして閨房けいぼうを監視する残忍をさえ敢てするということである。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
故人は彼自身も云っている通り、去年までは私との閨房けいぼう生活のことは努めて日記に附けないようにしていた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
閨房けいぼうの暗中の出来事だから、それと気がつかなかったのである。姫は賊を捕えたと思って、安心していると、本人は腕だけをのこして、闇にまぎれて逃げ去る。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すぐに典薬てんやくが、何人か閨房けいぼうに派出されたが、彼等は、ただ、小首をかたむけるばかりだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「さあ、どうぞ、御用の筋を仰ってみて下さい。私の力で及ぶ限りは、お力になるつもりですから」と探偵は促してくれたが、しかし何と言っても事は妻の閨房けいぼうに関したことであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
茶道の影響は貴人の優雅な閨房けいぼうにも、下賤げせんの者の住み家にも行き渡ってきた。わが田夫は花を生けることを知り、わが野人も山水をでるに至った。俗に「あの男は茶気ちゃきがない」という。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
夫婦ノ間デ閨房けいぼうノヿヲ語リ合ウサエ恥ズベキヿトシテ聞キタガラズ、タマタマ僕ガ猥談わいだんメイタ話ヲシカケルトタチマチ耳ヲおおウテシマウ彼女ノイワユル「身嗜ミ」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、その夜更けに、私は大胆にも、妻の寝室へさえ入って行ったのです。併し、それには少し危険を感じました。閨房けいぼうける兄の習慣丈けは、私もまるで知らなかったのです。
婦人の閨房けいぼうは神聖なものである、夫といえどもみだりに犯すことはならない、———と、彼女は云って、広い方の部屋を自分が取り、その隣りにある狭い方のを私の部屋にあてがいました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女は閨房けいぼう口説くぜつにいつもこの手を出すのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)