鍵形かぎがた)” の例文
その右手の頑丈がんじょうな踏み心地ごこちのいい階子段はしごだんをのぼりつめると、他の部屋へやから廊下で切り放されて、十六畳と八畳と六畳との部屋が鍵形かぎがたに続いていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
四畳半ぐらいのオンドル附きの部屋が四ッきりの、二間ずつ鍵形かぎがたつらなった低い藁葺わらぶきの家で、建物は至極しごくみすぼらしかったが、屋敷内はかなり広かった。
時化しけつづき西風強く、夜は絶えて漁火いざりすら見ね、をりをりに雨さへ走り、稲妻のさをうつりに、鍵形かぎがたの火の枝のはりひりひりとき光なす。其ただちとどろく巻波まきなみ
旅客用の部屋は母屋おもや鍵形かぎがたになつた離室はなれの方で、二階二間、階下二間、すべて六疊づつの部屋なのです。
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
畳は六帖と八帖が鍵形かぎがたにつながって敷かれ、上りはなの板敷との間に大きな炉が切ってある。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
表口おもてぐちの内側にゐた菊地鉄平は、美吉屋の女房小供や奉公人の退いたあとしばらく待つてゐたが、板塀いたべいの戸口で手間の取れる様子を見て、鍵形かぎがたになつてゐる表の庭を、縁側のすみに附いて廻つて
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それは空中を鍵形かぎがたに区切り、やいば型に刺し、その区切りの中間から見透みとおす空の色を一種の魔性ましょうに見せながら、その性全体においては茫漠ぼうばくとした虚無を示して十年の変遷へんせんのうちに根気こんきよく立っている。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
事務長は朋輩ほうばいにでも打ち明けるように、大きな食指を鍵形かぎがたにまげて、たぐるような格好をして見せた。葉子がちょっと判じかねた顔つきをしていると
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)