ぼたん)” の例文
常の衣の上に粗𣑥あらたへ汗衫じゆばんを被りたるが、そのさんの上に縫附けたる檸檬リモネからは大いなるぼたんまがへたるなり。肩とくつとには青菜を結びつけたり。
爾して其の本の抜けた後の空所へ手を差し入れたが、秘密のぼたんでも推したのか忽ち本箱が扉の様に両方へ開いた。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
風の、そのあわただしい中でも、対手あいてが教頭心得の先生だけ、ものとわれた心のほこりに、話を咲せたい源助が、薄汚れた襯衣しゃつぼたんをはずして、ひくひくとした胸を出す。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
打扮いでたちは和蘭陀の古代の風俗(帯で腰を約した木綿衣)袴は幾重も穿き、外の分は濶くて、両側は各一列のぼたんで留めてあります。膝の処には紐が附いて居ります。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
但し材料しなものや飾りは出来るだけ派手な上等のものにして、ぼたんにはこれを附けるようにと云いながら、髪毛かみのけの中から大粒の金剛石ダイヤモンドを十二三粒取り出して渡しました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
向ひには、皮膚のあらゆる毛孔けあなから脂肪を噴き出してゐるやうな、あから顔の大男が乗つてゐる。竪横たてよこしまのある茶色の背広服のぼたんが、なんだかちぎれさうなやうな気がして、心配である。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おびしめぼたんかけかため、あしゆびのこらず裏返うらがへす。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
けれども今一人はこれと違って、大きな金剛石ダイヤモンドぼたんを着けた紫色の男の服に華奢きゃしゃな銀作りの剣を吊るして、かしらかむった紫色の帽子には白鳥の羽根を只一本していました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
昨夜ゆうべ来た、悪魔が来た。美紅姫にそっくりの悪魔が男子の着物……紫の髪毛かみのけ……銀のつるぎ……金剛石ダイヤモンドぼたん……窓から白い手を出して……手には美しい宝石のひもを持って……その紐を投げ付けた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)