金蛇きんだ)” の例文
月は中天にありて一条の金蛇きんだ波上にする処、ただ見る十数そうの漁船あり。かがりき、ふなばたを鳴して、眼下めのした近くぎ寄せたり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入江の奧より望めば舷燈高くかゝりて星かとばかり、燈影低く映りて金蛇きんだの如く。寂漠たる山色月影のうちに浮んであたかも畫のやうに見えるのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
夜はほのぼのと明けて、太陽の光が東の天に金蛇きんだを走らしたころに、一同は身軽に旅装りょそうをととのえた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
下弦げゞんつき皓々かう/\わたりて、金蛇きんだはしらすなみうへには、たゞ本艦ほんかん蒸滊機關じようききくわんひゞきのみぞすさまじかつた。
そして女の金蛇きんだ腕環うでわを取って、そこからつかみ出すやいな、土間の一隅にけてあった三箇の大きな酒甕さけがめのうちの一つへ、女将おかみの体をさかしまにほうり込んでしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入り江の奥より望めば舷燈げんとう高くかかりて星かとばかり、燈影低く映りて金蛇きんだのごとく。寂漠せきばくたる山色月影のうちに浮かんで、あだかも絵のように見えるのである。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぼくらはなおもかわるがわる望遠鏡をとってながめたが、もう太陽は西にかたむいて海波に金蛇きんだがおどれば、蒼茫そうぼうたるかなたの雲のあいだに例の白点が消えてしまった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
肉づきのいい雪膚せっぷかいなもあらわにむき出した羅衣軽裳らいけいしょうの若い女将おかみで、柘榴ざくろ色の唇をキュッとゆがめ、金蛇きんだ腕環うでわのみえる手を頬の辺りにやって、さっきから虫を抑えていた風だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)