負惜まけおし)” の例文
恒「負惜まけおしみを云やアがるな、此様な書付を張ったからにゃア二度と再びうちの敷居をまたぎやアがるとかねいぞ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
端へ出るのさえ、後を慕って、紙幣さつ引摺ひきずられるような負惜まけおしみの外聞があるので、角の処へも出ないでいた。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これいはゆる負惜まけおしみのやせ我慢なり。しかして痩我慢より割り出したる俳句はごうも文学に非るなり。れ其角派の系統を継げり、故に其角派の俳句をものせんと。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
即ち自分というものを発揮してそれで短所欠点ことごとくあらわす事をなんとも思わない。そして無理の事がなくなる。昔は負惜まけおしみをしたものだ、残酷な事も忍んだものだ。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわちいつまでもあれは名が俗だなどと、負惜まけおしみをいってあきらめるものが多いわけである。これに比べると郷土の人たちの附けた名は大抵はもっと実際的であった。
さすがに弥次よりは高き情をもてる故なるべしとは負惜まけおしみなり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
時に、それは失敗者の負惜まけおしみからの擬態とも取れた。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
副官は負惜まけおしみの冷笑を洩らした。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
負惜まけおしみをいふと
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
着換えに紋付もんつきの一枚も持った、しま襲衣かさねの若旦那さ。……ま、こう、雲助が傾城買けいせいがいの昔を語る……負惜まけおしみを言うのじゃないよ。何も自分の働きでそうした訳じゃないのだから。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
会話は新聞社内の有様ありさまから始まつた。平岡はいそがしい様で却つてらくな商買でいと云つた。其語気には別に負惜まけおしみの様子も見えなかつた。代助は、それは無責任だからだらうと調戯からかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
妙な意地だか、負惜まけおしみだか、それとも行倒れになるのがこわくって、帰り切れなかったためだか、——その辺は自分にも曖昧だが、とにかく自分は、もっとも熱心な語調で原さんを口説くどいた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「本当に要らないんですよ、甲野さんのは。負惜まけおしみや面当つらあてじゃありません」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)