見飽みあ)” の例文
オオこわい、というような気がして、私はおっかさんにすがりつくと、そのお侍は、いきなり私の手を取って、見飽みあかぬように、涙ぐむじゃアありませんか
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の手下どもが徘徊はいかいする深夜の光景に至るまで、大小洩だいしょうもれなく、南京路の街頭を見つくし見飽みあきているのだった。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
復一は「はてな」と思った。彼は子供のときから青年期まで金魚屋に育って、金魚は朝、昼、晩、見飽みあきるほど見たのだが、ほたるくずほどにも思わなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
百姓弥之助ひゃくしょうやのすけは、武蔵野の中に立っている三階艶消つやけしガラスの窓を開いて、ずっと外を見まわした。いつも見飽みあきている景色だが、きょうはまた馬鹿に美しいと思った。
子供こどもは、ふくろうの眼球めだまが、しろくなったりくろくなったりするのを、もう見飽みあきてしまいました。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
太宰府に残って、観世音寺造営に従っていた沙弥満誓さみのまんぜいから「真十鏡まそかがみ見飽みあかぬ君におくれてやあしたゆふべにさびつつ居らむ」(巻四・五七二)等の歌を贈った。それにこたえた歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
数日来見飽みあきるほど見て来た平凡へいぼんな木乃伊である。彼は、そのまま、行過ぎようとして、ふとその木乃伊の顔を見た。途端とたんに、冷熱いずれともつかぬものが、彼の脊筋せすじを走った。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
年来陳腐ちんぷなくらい見飽みあきている単純なきまりの悪さだと評するよりほかに仕方のないこの表情は、お延をさらに驚ろかさざるを得なかった。彼女はこの表情の意味をはっきり確かめた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この見飽みあきたる懸額かけがく
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
偵察蜂ていさつばちが出て行ったり、突撃蜂を撃退したりしている。官兵衛は見飽みあかない顔をしていた。けれど頭のなかではまったくべつなことを思案していたかも知れなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ当分そこに逗留とうりゅうするがいい。だが町もいい加減かげん見飽みあきたろうから、消してやろう」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくら見ていても見飽みあかない山岡屋の顔つきだった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)