覆轍ふくてつ)” の例文
どの国民も決してあの暴状をねようとは考えないのですから、露西亜人は世界人類のために前車の覆轍ふくてつを示したことになります。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
前車ぜんしゃ覆轍ふくてつ以てそれぞれ身の用心ともなしたまはばこの一篇の『矢筈草』あにいたずらに男女の痴情ちじょうを種とする売文とのみさげすむを得んや。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しからば猶太ユダヤの亡国は当然であるが、カイゼルはこの前車の覆轍ふくてつを怖れずして、またもその轍をんで自らその車をくつがえおわった。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
次に第二句のはじめに「底」といふ字ありて結句に「加茂の河水」と順序を顛倒したるは前の雪の歌と全く同一の覆轍ふくてつに落ちたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「失敗して帰って来た僕が忠告らしいことを言うのは変なものだが、前車の覆轍ふくてつということもある。参考になるぜ」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その五大洲中ヨーロッパの文明が世界に冠たることを説き、その文明国を夷狄視いてきしすることの浅見より、支那の覆轍ふくてつを説いての教え方も要領を得ている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
現今世界中海軍の勢威を輝かす英米両国互に兵端を開けば、必ず南仏陸地に於て勝負を決したる覆轍ふくてつ(普仏戦争一八七〇年七月宣戦——九月セダン大敗)
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
之れを以て今の作家に擬するは屋上屋を架するの愚を演ずるものにはあらざるか。今の作家をして中古派ローマンチツク、スクール覆轍ふくてつましめんと欲するものにあらざるか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
城に拠って固守すれば少しは支え得ようが、動こうとすれば四年前の小山田筑前の覆轍ふくてつむほかは無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もし朝廷において一時の利得を計り、永久治安の策をなさない時には、すなわち北条ほうじょうの後に足利あしかがを生じ、前姦ぜんかん去って後奸こうかん来たるの覆轍ふくてつを踏むことも避けがたいであろう。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
残燈滅して又明らかの希望を以て武術の妙訣みょうけつを感得仕るよう不断精進の所存に御座候えば、卿等けいらわかき後輩も、老生のこのたびの浅慮の覆轍ふくてつをいささか後輪の戒となし給い
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
旧水戸藩の覆轍ふくてつに陥ることはなかるべきやと、憂苦に堪えざるなり。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
太祖の深智しんち達識たっしきは、まことにく前代の覆轍ふくてつかんがみて、後世に長計をのこさんとせり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と私は松本さんの覆轍ふくてつに鑑みたのだった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
遠くても、寒気がはげしくても棄てては置けぬ。十一月五日には氏郷はもう会津を立っている。新領地の事であるから、留守にも十分に心を配らねばならぬ、木村父子の覆轍ふくてつを踏んではならぬ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)