袴腰はかまごし)” の例文
つまり昔の国境は今と違って沼の中央から北に向って大江沢を遡り、大江山から南下して袴腰はかまごし山に達したものではあるまいか。
上州の古図と山名 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこを出るとすぐ、何か、荒々しい皺嗄しわがれた声が、大玄関の方で聞えた。孫太夫はもう袴腰はかまごしがすこし曲って見える年齢としである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広小路一帯は今日とは大分だいぶ違い、袴腰はかまごしがもっと三枚橋の方へ延び、黒門と袴腰の所が広々としていた。山下の方には、大きな店で雁鍋がある。
根津の下屋敷を出まして、上野の広小路で買物をいたし、今山下の袴腰はかまごしの方へ掛ろうとするうしろから、松蔭大藏が声をかけ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うしろから袴腰はかまごしを当てた、「そんなことあんたは知らなくってもいいの、兄のほうはあたしが引受けたんだから、ね、あと半ときばかりしたら出るのよ」
泥だらけの手足を躍らして小犬のように跳ね上ると、玄関の式台へ泥足のまま駈け上って、栗野博士を突除つきのけながら、澄夫の袴腰はかまごしにシッカリと抱き付いた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
筒袖つつそでを着て袴腰はかまごしのあるズボンを穿いているからそれでそう言ったもので、あんまり良い人が集まらなかったから、多くは市中の破落戸ならずものを集めたものであります。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海沿いの道を約一里あるいて、袴腰はかまごしという処に部隊がある。眼をあげると、空は晴れ上って、朱を流したような夕焼であった。私の心もほっと明るくなるような感じであった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そこで青磁の御承知の袴腰はかまごしのこういう香炉がありますが、そういうようなものは今日五万、十万、二十万という値をしておりますが、これがどういう場合に使えるかと申しますと
「この真正面にお台場見たいな青草の島があるでしょう? あれを袴腰はかまごしといいます」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その若者の袴腰はかまごし左手ゆんでをかけて、軽く突くと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まだ体温のある胸、胴巻、背中、袴腰はかまごし……はては脚絆きゃはんひもまでといてあらためたが、どうしたのだろう? 目的の秘帖はどこからも出てこない。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雁峠から右に引き上げた緩い草原の斜線が、一頓いっとんして二つ三つ波を打った者が笠取山で、『甲斐国志』に所謂袴腰はかまごし山に当り、其東は栂の大木が黒く茂った枝沢山である。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
紺足袋こんたび福草履ふくぞうりでお前駆さきともで見廻って歩きます、お中屋敷は小梅で、此処これへお出でのおりも、未だお部屋住ゆえ大したお供ではございませんが、權六がお供をして上野の袴腰はかまごしを通りかゝりました時に
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おのれ、慮外な振舞いをなすと、六波羅の糺明所きゅうめいじょへ突き出すぞよ」四郎の袴腰はかまごしをつかんで、月輪殿の側から引きもどそうとすると、振向きざま
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大江山から袴腰はかまごし山、黒岩山あたり鬼怒沼方面にかけて、打ち続く針葉樹林の真黒なのに驚いたが、眼を北に転じて脚下の檜枝岐川や只見川の渓谷を見た時、再び凝然ぎょうぜんとして目をみはらざるを得なかった。
尾瀬雑談 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それを二、三人の法師弟子が出て来て、袴腰はかまごしをつかんでずるずると席のほうへ引っ張り込む、その後に血の交じったよだれが糸をひいて床をらしている。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、小次郎も真似まね袴腰はかまごしに巻いていた小豆あずき色の縮緬ちりめんを、前髪のうえからかぶって、顎の下にたっぷり結んで下げた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藁編わらあみの目のあらい笠を眉深まぶかにかぶって、袴腰はかまごしへ武者修行風呂敷をしばりつけた背の高い若者が、半開きにした鉄扇てっせんを、笠のひさしにかざして、熱心に伏見城の地勢や工事のさまを眺めていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄の五郎右衛門はまた、弟の袴腰はかまごしをうしろから締め直してやっている。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袴腰はかまごしが、解けかけて居りますぞ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)