表沙汰おもてざた)” の例文
と言って、それを一々とがめだてしていては、針の先のようなことまで表沙汰おもてざたにして、違反者ばかり出していなければならない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
借金の返済ができなくなり、それがもし表沙汰おもてざたになったとすれば、扶持ふちをはなされ、一家が離散しなければならなくなるかもしれないのである。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これを表沙汰おもてざたにせば債務者は論無う刑法の罪人たらざるべからず、ここにおいたれか恐慌し、狼狽ろうばいし、悩乱し、号泣し、死力をつくして七所借ななとこがり調達ちようだつを計らざらん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それもかんがへてをりますけれど、あんなかたですから、問題もんだいにするには、表沙汰おもてざたにするよりほかございません。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
表沙汰おもてざたにしないようにとの、老住職の心づくしも無駄になって、どうしてもこの盗賊の被害者としての引合いをまぬかれないところから、柔和な老住持はこれを苦にした。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここで問題は俄然がぜん表沙汰おもてざたになり、とうとう汐巻灯台へ本省からのきびしい注意があたえられた。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
表沙汰おもてざたになるのを極端に嫌ひ乍ら、これは又何とした事でせう。尤も町内へは屋敷へ女賊が入つて、大事の品を盜んで隱したので、その在所を白状させる爲といふ觸れ込み。
正当防衛を表沙汰おもてざたにすれば、もっと気が楽であったろう。しかし、そうしては、あけみとの恋愛が破れてしまう。現在のような思うつぼの状態は、絶対に来なかったにちがいない。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
表沙汰おもてざたにするんだとつしやるぢやありませんか、井上の奥さんはア云ふ気象の方なもんですから大変に御腹立でしてネ、カウ云ふ時に婦人会が少し威張らねばならねのだけれど
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし友達が色々と骨を折って、ついに表沙汰おもてざたにせずに済むようにしてやりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
続けた——「もとはと言えば、無名の手紙からでございます。だれが書いたものやら、それはわかりませんが、それさえなければ、こんな事柄ことがら表沙汰おもてざたになるわけは、少しもありませんですよ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
表沙汰おもてざたにできたらなあ」と功兵衛はまた呟いた、「——しかし瘤があるからな、侍の面目、家名、人には見せられない瘤か、さくらにはそれが見えたんだな」
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仮令又気附かれたところで、そんな毒薬を持っていることがすでに違法なのですから、表沙汰おもてざたになる筈もなく、それに、上手にやりさえすれば、誰が盗んだのかも分りはしません。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「なに実家へ預けて置きさえすればどうにかするだろう。その内健三が一人前になって少しでも働らけるようになったら、その時表沙汰おもてざたにしてでもこっちへ奪還ふんだくってしまえばそれまでだ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあお待ち下さい、表沙汰おもてざたにすることは見合わせが願いたい。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
主人の心遣こころづかいにもかかわらず、湖畔亭殺人事件は、既に表沙汰おもてざたになってしまいました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)