血飛沫ちしぶき)” の例文
「いや、直ぐ夜具で押へたからたいしたことはあるまい。——兎も角、血飛沫ちしぶきを受けた者を調べるのは、惡いことではないな」
まず戸口から青竹の杖が、一本スッと突き出され、つづいて血飛沫ちしぶき斑点しみをつけた裾と、土にまみれた足もとがはいって来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
車輛と車輛との間が、鋼鉄車体こうてつしゃたいのところといわず、連結器のところと云わず、真赤な血飛沫ちしぶきがベットリ附着し、下の方へしずくがポタポタとちていた。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこは最も高床たかゆか懸崖けんがいだった。投げられた任原はクシャッと一塊の肉と血飛沫ちしぶきになったきりで動きもしない。仰天したのは万余の見物だけではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敷布のくぼみの血だまり、籐椅子の上の金盥かなだらいには、赤い水が縁まで、なみなみとたたえられている。血飛沫ちしぶきが壁紙と天井になまなましい花模様をかいている。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
左右を見廻すと近くに居た連中はみんな、八方へ飛退とびのいた姿勢のまま真青な顔を引釣らして福太郎の顔を見上げていたが、中には二三人、顔や手足に血飛沫ちしぶきを浴びている者も居た。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さっ白紗はくしゃの蚊帳に血飛沫ちしぶきが散って、唐紅からくれないの模様を置いた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
万七は六畳の間に入ると、血飛沫ちしぶきの間を拾って死体に近づきました。後ろからはお神楽かぐらの清吉、虎の威を借りて、これも肩で風を切ります。
同時に刃交ぜの機が熟したか、どッと雪崩なだれかかった乱刀が、一瞬にして新九郎の五体を隠し、剣鳴戞然けんめいかつぜん、凄まじい白光乱裏はっこうらんり血飛沫ちしぶきの虹がピュッと走った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、すぐに、武士は、足から先に、紙帳の中へ引き込まれ、忽ち、断末魔の声が起こり、バーッと、血飛沫ちしぶきが、紙帳へかかる音がしたが、やがて、森然しんと静まってしまった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浅田シノ(仮名一七)の後頭部を乱打し、血飛沫ちしぶきの中に声も立て得ず絶息せしめた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「その血飛沫ちしぶきの中に、塀の割け目を、裏からつくろったのがあるだろう、——同じような黒い板だが、その板だけは血の跡も無いのはどういうわけだ」
背後の白幕に虹のような血飛沫ちしぶきを残しながら、フットライトの前にヒレ伏した。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お延を目がけて飛びかかった刹那——ブーンと風を切って上から飛んで来た一筋の投げ槍、あッと血飛沫ちしぶきが散ったと思えば、雨龍太郎は見事胸元を突き貫かれてどうと仰向けにたおされていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血飛沫ちしぶきによって作られた網が! 思うにそれは、先夜、飯塚薪左衛門の屋敷で、左門によって討たれた浪人の血と、片足を斬り取られた浪人の血とによって、新規あらたに編まれた網らしく、血の色は
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「氣の毒だが、その胸の血飛沫ちしぶきがモノを言ふから、一刻ばかり此處へ寄り付かないといふ、確かな證人がなきや——」
生れて初めての強敵を刺止しとめし事とて、ほつと一息、長き溜息しつゝ、あたり見まはす折しもあれ最前の若衆、血飛沫ちしぶき乱れ流れたる明障子あかりしやうじさつと開きて走り寄り、わが腰衣こしごろもに縋り付きつゝ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その間にも、右へ左へ、颯々と血飛沫ちしぶきの雨が走る。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気の毒だが、その胸の血飛沫ちしぶきがモノを言うから、一刻ばかりここへ寄り付かないという、確かな証人がなきゃ——」
血飛沫ちしぶきが障子一面に飛んで、白い乳のたまがトロトロと紅い網に包まれた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
待つてくれ、中ノ橋の親分。廊下には少しも血が附いちやゐないぜ、障子の血飛沫ちしぶきはひどいが——多分脇差わきざしを障子越しに突立てられると、主人は傷を
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
蚊帳には牛九郎老人の枕元に血飛沫ちしぶきがかかっているだけで、ほかに何の異状も認められないところを見ると、二人の寝息をうかがった犯人は、大胆にも電燈をけるか何かして蚊帳の中に忍び入って
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その遺書を取上げると、遺書の下、疊の上には血飛沫ちしぶきがあり、遺書は粗末な半紙に、提灯ちやうちん屋風に、タドタドしい筆蹟でなすつたもので、その文面は
あツと言ふ間もない、三太刀、四太刀、滅茶々々に斬つて到頭とゞめを刺し、土藏から飛出した曲者は、血飛沫ちしぶきで汚れた袷を脱いで縁の下に突つ込んだ。
良い男のくせに、顏は恐怖と苦痛に歪んで、妙に物凄まじく、胸の脇差は拔いてありますが、黒つぽい單衣ひとへをひたして、疊も障子も恐ろしい血飛沫ちしぶきです。
得物は彫物師の使ふ鋭いのみ、燒印はガラツ八が言ふ通り、得物が深々と入つたせゐか、大した出血ではありませんが、それでも其邊は一面の血飛沫ちしぶきです。
得物は彫物師ほりものしの使う鋭い鑿、焼印はガラッ八が言う通り、得物が深々と入ったせいか、大した出血ではありませんが、それでもその辺は一面の血飛沫ちしぶきです。
傍には弟の民五郎、妙にウロウロして、何事も手の付かぬ樣子で平次を迎へましたが、さすがに落着きを見せる積りか、血飛沫ちしぶきの中に、をのゝく膝を突いて
そばには弟の民五郎、妙にウロウロして、何事も手の付かぬ様子で平次を迎えましたが、さすがに落着きを見せるつもりか、血飛沫ちしぶきの中に、おののくひざを突いて
そして趣味しゆみの惡い裝飾のゴテゴテとした八疊で、書院風になつた床側の柱の側、もたれて酒を呑んで居たといふ障子に、一面の血飛沫ちしぶきがして、脇差を通した跡といふのが
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
穴が高過ぎるし、血飛沫ちしぶきも少な過ぎる。曲者くせものは障子越しに突いたと見せて置いて、實は、主人と話をしながら、素知らぬ顏で後へ廻つて、見當をつけて一と突きにやつたのさ。
「この寝巻の背中から後ろ襟へかけて、血飛沫ちしぶきを浴びて居るんです、——矢張りあのお夏という娘が怪しいんじゃありませんか。あんな可愛らしい娘の癖に、証拠が揃い過ぎますよ」
「この寢卷の背中から後ろえりへかけて、血飛沫ちしぶきを浴びてゐるんです。——矢つ張りあのお夏といふ娘が怪しいんぢやありませんか。あんな可愛らしい娘の癖に、證據が揃ひ過ぎますよ」
八五郎は血飛沫ちしぶきの障子の前に坐つて、氣味惡さうに胡坐あぐらを掻きました。
「窓の下の空地には血飛沫ちしぶきがあるだらう」
「窓の下の空地には血飛沫ちしぶきがあったろう」