蠱惑的こわくてき)” の例文
僕等には妙な匂いで、それほどとも思いませんが、土人たちは所謂いわゆる、女房を質に置いてもうという、何か蠱惑的こわくてきなものがあるんですね
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ことに問題となるのは天人や菩薩ぼさつとして現わされた女の顔や体の描き方、あるいは恋愛の場面などに描かれた蠱惑的こわくてきな女の描き方である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この芋焼器の「作用と効果」というのが、実に名文で、一読いちどく、やき芋屋へ走りたくなるという御婦人方には極めて蠱惑的こわくてきなものである。すなわち——
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
それが、どんなに、気味悪く、同時に蠱惑的こわくてきなものであったでしょう。…………私はそうして、毎日毎日、飽きもせず眺め暮したことであります。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
写真ハ全裸体ノ正面ト背面、各部分ノ詳細図、イロイロナ形状ニ四肢ヲ歪曲わいきょくサセ彎屈わんくつサセ、折ッタリ伸バシタリシテ最モ蠱惑的こわくてきナル角度カラ撮ッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
晩になると、いつもいくらかの金をどうにか手に入れて、この小人は芝居しばいに行く。ところがその蠱惑的こわくてきしきいを一度またぐと、彼らの様子は変わってしまう。
それを事務長もどうすることもできなかった。葉子は三人の前に来ると軽く腰をまげておくをかき上げながら顔じゅうを蠱惑的こわくてきなほほえみにして挨拶あいさつした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三人の三角なりな気持のからみ合いは、何か美しいあやの多い葉子の話しぶりによると、それは相当蠱惑的こわくてきなローマンスで、モオパサンの小説にも似たものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あの蠱惑的こわくてきな不思議な町はどこかまるで消えてしまって、骨牌カルタの裏を返したように、すっかり別の世界が現れていた。此所に現実している物は、普通の平凡な田舎町。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
長らく秘密の殿堂に参籠さんろうして男性魅縛みばくの術を体得したのち、とつじょ風雲急なるヨーロッパに現われて、その蠱惑的こわくてき美貌と、不可思議な個性力と、煽情せんじょう的な体姿とを武器に
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
遥か彼方から如何にも蠱惑的こわくてきに地主やかたの赤い屋根と白い煙突とが、樹々の緑をとおしてチラホラ見え出すと、私はそれをかざしている園が両方へひらけて、一刻もはやく邸の全貌が
いつになっても、蠱惑的こわくてきな若さを持ったお絹の面と、眉間みけんの真中に大傷を持った自分の面とが、鏡面に相並んで浮び出でたのを見た神尾は、クラクラと眼がくらむのを覚えました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
深いえくぼ、切れの長い眼も、紅い唇も、妙に蠱惑的こわくてきですが、前歯が二枚欠け落ちて、右の額から頬へかけて、燃え立つような赤痣、焼き損ねた名窯の陶器を見るような、痛々しさと凄まじさに
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
燻製つうの博士がこれまでに味わった百十九種の燻製のそのいずれにも属せず、つそのいずれもが足許あしもとにも及ばないほどの蠱惑的こわくてき味感みかんを与えたものであるから
目の前に見る酒に赤らんだ事務長の顔は妙に蠱惑的こわくてきな気味の悪い幻像となって、葉子を脅かそうとした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
成熟せる蠱惑的こわくてきな女体をその蠱惑的なままに観音に高めるというごとき(たとえば観心寺の如意輪観音)あの著しい傾向を生んだことの理解によって、一層明らかに特性づけられるであろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
面白いというだけでは当りません、蠱惑的こわくてきという言葉がありますが、まああの感じです。一度ひとたびその会に入ったら、それがみつきです。どうしたって、会員をそうなんて気にはなれないのです。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
サルンで子供たちと戯れている時でも、葉子は自分のして見せる蠱惑的こわくてき姿態しながいつでも暗々裡あんあんりに事務長のためにされているのを意識しないわけには行かなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
非常に蠱惑的こわくてきなものがあった。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
俺はとにかく誘惑をけよう。俺はどれほど蠱惑的こわくてきでもそんなところにまごついてはいられない。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし柿江にとっては、この上もない迷惑なことであって、この上もない蠱惑的こわくてきな冒険だった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)