藁家わらや)” の例文
百姓では食って行けない越後平野の百姓が、その鉄を鍛えあげている。野鍛冶のかじから発達した田舎の藁家わらやの庭でつくられる。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
戸外の作事場なのでしょうか、まるで滑石なめいしのようにてら/\光る堅い土面の上を歩んで行きますと、屋根に養蚕の天井窓のある藁家わらやがありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
軒の深い藁家わらやの縁先で、雀と共に冬日を浴びながら、本でもよんでゐたい。然しあの細君では——競馬や麻雀の好きな細君ではとても話にはなるまい。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その錦鱗湖に行って見たが、池の形も人工が加わっておらず自然で、沢山たくさんの浮草の生えているさまも面白く、また岸にある藁家わらやの重なりあって建っているさまも面白かった。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
がったんがったんとだるい音を立てて水車が一日廻っていたが、小雨こさめなどの降る日には、そこいらの杉木立ちの隙に藁家わらやから立ち昇る煙が、淡蒼うすあおく湿気のある空気にけ込んで
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
近頃は多く板取いたどりと書くのを見る。その頃、藁家わらや軒札のきふだには虎杖村と書いてあった。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三河島のとある家、——貧しくも哀れな藁家わらやの入口へ老爺は足を停めました。
尼が草庵は嵯峨釈迦堂よりうしとらかた、大沢の池へ行く路の傍の、とあるやぶかげにあって、部屋は僅かに二た間しかない怪しげな藁家わらやの、廣い方の一と間を佛間にてゝ、あさゆう佛に仕えながら
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一夜北国にありて月明に乗じ独り郊外を散歩し、一けん立ての藁家わらやの前を通過せんとした。ふと隙漏すきまもる光に屋内をうかがうと、を囲める親子四、五人、一言だもかわさずぼんやりとしてあんむさぼっていた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
北国ほっこくの夏の空は、暮るると間もなく濃紺に澄み渡る。星は千年も二千年も前に輝いた光と同じく、今宵こよい始めて、この世を照すように新しく、鮮やかに、湿しめっぽい光は草の葉の上や、藁家わらやの上に流れた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
みじか日の孟宗さむき田圃横藁家わらやひとつ見えてわらべ雀追ふ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
軒の深い藁家わらやの縁先で、雀と共に冬日を浴びながら、本でもよんでゐたい。然しあの細君では——競馬や麻雀の好きな細君ではとても話にはなるまい。
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
このわびしい藁家わらやが自分の息を引取るべき家かというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)